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第七回星新一賞学生部門応募作品「真空のなかに詰まるもの」

作者: 学生

21世紀中期、世界の科学者達は存在しうる全ての元素を作り、周期表を完成させた。そんな中、多くの研究者は次の研究対象候補として「真空」というものに興味を持っていた。真空と言ってもその特性利用のために定義された、「通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間内の状態」のことではない。一般的に我々がイメージする真空、つまり何もない状態の空間のことだ。現在真空空間について分かっていることもいくつかある。そもそも真空空間はあらゆる物質が取り除かれた空間なのにも関わらずその中には発生源の無い無限のエネルギーがあり、突然質量を持った粒子が現れるという現象が見られている。これが宇宙から質量がうまれた原理なのだが、まだまだ謎に包まれた現象だった。この完全な真空については前述した通り多くの研究者が興味を持っていた。しかしそのほとんどが真空の研究をすることは現実的ではないと考えていた。それもそのはず、完全な真空を作る方法はまだ世界には無く、方法が発見されたとしても実際に研究するのには莫大な予算がかかるからだ。そのため、この研究が人類に大きな利益をもたらすと考える研究者も一定数はいたものの、実際に行動を起こしたものはいなかった。ある一人を除いて。

日本にはある有名な教授がいた。彼の名前は石原宇宙(いしはらこすも)。コスモの愛称で親しまれる偉大な研究者だ。彼の活動は多岐にわたり、DNAに関する研究、石原細胞の開発、そして長年に及ぶ化学兵器完全排除のための運動などがある。それらにより彼はノーベル化学賞、生理学・医学賞、平和賞の3部門でノーベル賞を取るという前人未到の偉業を成し遂げた。その彼が今、密かに真空の研究を行おうと試みていた。

「ねぇ岡君、今私は絶対真空について研究しようかと思ってるんだけど。岡君は絶対真空についてはどう思ってる?」

彼はまず、信頼の置ける助手の岡に真空の研究をしたいという旨を伝えてみた。相談のような口調だが、これは彼にとっては決定事項であり、それは岡も分かっていた。

「そうですね、先生がそう言うなら研究の流れのデザインはもう出来てるんでしょうけど、肝心の絶対真空はどうやって作るんですか?」

「実はその方法はもうなんとなく思いついてはいるんだよね。でも……」

「また例のごとくお金が足りないんですね。今回も資金集めから始めましょうか」

助手の岡の言った通り、彼は常に資金不足に悩まされていた。ノーベル賞を3部門で受賞した伝説の教授が研究資金不足に陥るだろうか、普通ならばそんなことは起きない。普通ならば。しかし、石原宇宙は普通とはかけ離れた男だった。彼の金遣いの大胆さは業界でも有名で、海外の研究者に

「Tell me what kind of person Dr. Ishihara Kosumo is. 石原宇宙博士はどんな人か教えてください。」

と聞くと皆口を揃えて

「He is a researcher known as a big spender.彼は浪費家として知られる研究者だ。」

と答えることだろう。だが、浪費家といってもプライベートの金遣いが荒いというわけではない。研究費の使い方がかなり大胆なのだ。それは彼の長所でもあり、その豪快な性格のおかげで数々の研究で成果をあげてきた。ただし、大金を使った割に成功とは程遠い結果だった研究も多々あり、その損害のせいで彼はバッシングを受け、現在研究費を大胆に使える程の額貰えていないのだ。また、個人的な資産もかなりありそうなものだが、そのほとんどは化学兵器排除のための活動などに使っており、研究に使える資金は本当に限られている。

「とりあえず今の資金でも作れる真空空間を観察して、世界があっと驚くような新発見を探してみようか」

「そうですね。なにか新発見があれば簡単に研究費を支援してもらえて楽なんですけどね」

石原は真空空間内の現象の原因を突き止める為、岡と共に真空空間内を様々な機械を用いて観察し始めた。しかし、2人ともそんなことをしても何にもならないということは理解していた。ではなぜ観察を始めたのか、それは真空内の粒子の動きなどをじっくり観察したという研究者は今までにあまりいなかったからだ。真空内で実験を行うならともかく、ただ真空内をじっくり観察したという研究者は誰もいなかったのだ。2人は誰もしたことがないので何かが起こるかもしれない、というその一点だけに賭けていた。

1ヶ月後、結果的に成果は出なかった。だが、一度真空内で奇妙なことが起きた。真空空間を覆っていたガラスに穴が空いたのだ。割れたりヒビが入ったりしたわけでもなく穴が空いていたのだ。その穴というのが目視で確認できないほどのかなり小さな穴で、なぜそんなことが起きたのかは誰にも分からなかった。岡はこれを些細な問題が起きてしまったと捉えるか、それとも新発見への糸口だと捉えるのか、どうすればいいかわからなかった。しかしこの反応が見られた時、石原宇宙は静かに笑っていた。

「人手を増やそうか」

彼は突然こう言った。

「え、まだこれを続けるんですか?」

岡は困惑してこう言った。そして続けて

「人手を増やすにもお金が要りますよ」

とも言った。だが石原は

「大丈夫、大丈夫」

と言うだけだった。

数日後、2人は小学校の教壇に立っていた。柔軟な思考ができる小学生達に実験を手伝ってもらうためだった。

「それでは、実験をするので理科室に移動してください」

石原は小学生達の手を借り、無料で人手を増やした。ノーベル賞受賞者が小学校で出張授業をしたいと言うとどこの小学校も快く承諾してくれたからだ。

「では実験の説明はこんな感じです。実験で分かったデータや気がついたことなどは、タブレットにメモしておいてください。質問などがあったら気軽に聞いてくださいね」

実験後

「どうですか、実験は楽しかったですか?」

「楽しかった〜!!」

「なんか、粒子さんが楽しそうに動き回ってて、すごかった」

「そうですか、それは良かった」

(へー。小学生は先入観がないから粒子を生物みたいなものとして捉えているのか)

石原達はガラスに穴が空いた現象の原因を突き止める為に小学生に実験を手伝ってもらっていた。しかし、目的はそれだけでは無く小学生が何気なく新発見をしてくれるのではないかと期待もしていた。だが、またもや成果を得ることは出来なかった。小学生にこの実験は難しかったらしく、データもバラバラで、感想も「すごかった」くらいのものしかなかった。また、複数の小学校を周って授業を行うのは効率が悪かった。

小学校を周ることをやめた日、次に彼はこう言い始めた。

「岡君、やっぱり宇宙に行って絶対真空に近い空間を観察してみないことには何も始まらないよ。」

確かにそれはそうなのだが、今彼には現実が見えていないようだった。

「でも、今この段階で宇宙に行くあては無いですし、もっと現実的なことを考えてみましょうよ」

「確かに…岡君の言うとうりかもしれないね」

岡の言葉を聞き、彼は珍しく自分自身の考えの現実性の無さを認めたようだった。これは余談になるが、彼が今本当に宇宙に行ったとすると、「宇宙」と名前に入った人が宇宙に行くのは史上2人目だ。

数日後、本当は宇宙へ行きたいところだがそうもいかないので、彼はまた人手を増やす作戦を考えていた。その作戦とは、極楽園の方々に手伝いを頼むことだ。極楽園とはなんなのか。簡単に言うと、延命治療を拒否し尊厳死することを選んだがん患者などが好きなことをしたり、集団生活を行なったりする場所のことだ。昔から賛否両論のある問題だが、近年、延命治療の拒否や尊厳死に関する法律が作られたことで、それらは割と一般的なものとなった。家族に迷惑をかけたくない、苦しい治療から解放されたい、余生を悔い無く過ごしたい、などなど様々な理由から延命治療を拒否した人達が残りの人生を楽しく歩んでいる場所がこの極楽園だ。彼がこの施設に来た理由は2つ、いや正確には3つある。まず1つ目の理由として、彼は極楽園をよく訪れる為、顔見知りが多く、研究を積極的に手伝ってくれるのではないかと考えたからだ。2つ目の理由として、この場所には老若男女多くの人がおり、様々な分野で活躍していた人が一挙に集っている為、新たな視点からの発見をしてくれそうだと期待したからだ。3つ目の理由は理由というには不確定すぎることなのだが、宇宙で真空について研究するチャンスがあるかもしれないということだ。というのも、極楽園に住んでいたり通っていたりする人の中から数人が宇宙に旅行へ行けるというイベントが近々行われるのだ。その主催者の名前は宇沢宙(うざわそら)。今年で還暦を迎える超有名な実業家で、民間人で初めて宇宙に行った日本人としても知られている。彼はUFOのことが大好きで、2035年にこの宇宙に人間以外の知的生命体はいないと証明されてからも、彼は宇宙人を探す為何度も宇宙を訪れていた。しかし彼は1人で宇宙へ行ったことはまだ無い。彼はよく誰かを連れて宇宙へ行く。例えば音楽家や芸術家などのアーティスト、小説家や漫画家、芸人などを連れて行ったこともあれば、スポーツ選手達と宇宙に行ったこともあった。民間人の中から抽選で選ばれた人と宇宙に行ったこともあった。そして彼は今回、残りの人生が少ない極楽園の方々を次の搭乗員に選んだのだ。そんなチャンスがあるのかは分からないが、石原は彼を口説いてあわよくば宇宙に連れて行ってもらおうと企んでいた。そんなこんなで極楽園での実験が始まった。ただまあ行なっていることはあまり変わらず、ポンプで真空空間を作り、中の状況を様々な機械を用いて観察するという方法だ。ただ、小学校で実験を行なったときの反省を生かし、実験の手伝いは全て15歳以上の人に行なってもらうことにした。だが正直岡にはこの実験を行う意味が全く分からなかった。真空空間を観察してももう大した発見は出来ないと分かっていたし、観察するにしてもAIを使って機械に任せた方がよっぽど効率が良いからだ。ということで、研究所ではAIを用いて真空空間を観察する実験も並行して行った。だが岡の考えとはうって変わって極楽園の人々はこの研究に賛成的だった。

「実験の流れはこんな感じです。興味があれば気軽に参加してみてください」

「じゃあやってみようかな」

「あ、私も私も」

また、極楽園では面白い出会いもあった。

「石原教授、お久しぶりです」

「あ、加地教授じゃないですか合同研究以来ですね」

彼女は加地京子(かぢきょうこ)。石原宇宙と共にDNAの研究を行いノーベル賞を受賞した優秀な生物学者だ。

「末期ガンというのは聞いていたんですが、極楽園にいらっしゃったんですね」

「そうなんですよ」

「極楽園の暮らしはどうですか」

「いやー何というか、正直死を受け入れてからは本当に楽になりました。研究者時代とは違って時間にゆとりできたので存分にゆっくりしてますよ」

「それは良かった。そうだ、よければ、実験を手伝ってもらえませんか?」

「いやいやもちろん、協力させてもらいますよ。私の研究所にもある程度の真空空間を作る機械はあると思うのでそれも是非使ってください」

「いいんですか、ありがとうございます」

たくさんの人が観察に参加してくれたおかげで、たくさんのデータがあつまった。中でも、雄平という青年はかなりの量のデータを集めてくれていた。彼はYou Hey.という名で動画配信を行っていて、余命10ヶ月の動画配信者としてネットでは有名な人物だ。軽快なトークと独特な企画力で人気になった彼は、データを集める代わりに真空空間を動画のネタとして提供してもらっていたのだ。

「あ、雄平くん、実験動画の反響はどうだった?」

「いやーそれが本当にすごくて、子供達に大ウケなんすよ」

「本当に!こっちとしてもそれは嬉しいなぁ」

「また実験設備使わせてもらってもいいですか」

「いいよいいよ。実験の楽しさを子供達に教えてあげてね」

データを取れただけではなく極楽園の方々と仲良くなることもでき、石原は大満足だった。だが、それが肝心の新発見に繋がるとは限らない。岡が先ほど言っていた通り、研究所の方ではAIを使って同じ実験も行っていた。なのでそちらのデータと極楽園でのデータを比較してみた。すると不可解なことが起こっていた。基本的に同じような数値が続いているのだが、真空空間内の粒子の動きに関して、全く異なった数値が出ているのだ。極楽園と研究所の実験環境はほぼ同じに揃えていたにも関わらず、極楽園で行われた実験の方が真空空間内の粒子が激しく動いていた。ここでの粒子には真空空間に残っていた気体も含まれるが、恐らく激しく動いていたりするのは初めに述べた真空空間内に突然現れすぐに消える謎の粒子の方だろう。また、真空空間を囲うガラス容器に分子レベルで小さな穴が空くという現象も極楽園の方では起こっていた。しかし、これも研究所の方では起こっていなかったのだ。人が観察を行ったのかAIが観察を行ったのかという違いがこれら現象を生んでいるのだろうか。石原と助手の岡は仮説を立てた。そして石原は特に熱心に実験に取り組んでくれた極楽園の方にも仮説を立ててもらうことにした。中でも多かった仮説は、真空内の粒子には、人に見られた時と見られなかった時で動きを変える性質があるのではないかというものだ。これは岡の仮説にかなり近く、岡は真空内の粒子に「観測者効果」のようなものが起こったのではないかと予想した。ただ、厳密にいうと今回起きた現象は、観察者効果とは少し違う現象なのだ。まず「観測者効果」というのは、何かある観測対象があったとして、それを観測したときと観測しなかった時で結果が変わってしまう現象のことだ。かなり不思議な現象だが、人がその対象を観測しようとしているかしていないかという意識の違いがこの現象を起こすのだ。だが今回の場合人を使ったにしろAIを使ったにしろ最終的に真空空間内の粒子という対象を観測しているため、観測者効果が起きたとしても結果は変わらないはずなのだ。つまり、難しい話になるが岡の仮説には少し矛盾があった。そんな中、極楽園にはかなり独自的で興味深い仮説をする人が2人がいた。生物学者の加地と、動画配信者の雄平だ。年齢も性別も職業もなんの共通点もない2人だが、2人の仮説はかなり突飛で似たようなものだった。簡単に言うと、真空空間内の粒子は、粒子ではなく、かなり小さな生き物なのではないかという仮説だ。岡はそれを聞いた時、唖然として開いた口が本当に塞がらなかった。それはなぜか、その仮説を石原の口から聞いたからだ。実を言うと独自的な仮説をする人物はもう1人いたのだ。石原の仮説も偶然ながら2人と同じものだった。確かにこの仮説は観測者効果などというものよりもかなりわかりやすいものだった。例えば、ペットの犬は飼い主がいる前と家で1人でいる時では振る舞いが全く違う。たとえカメラなどで観測されていたとしてもだ。だが、そんなことがあり得るのだろうか?あり得ないだろうと岡は思った。この仮説をすんなり受け入れることよりは、あの石原教授といえど、たまにはおかしなことを言うんだなと思う方がよっぽど楽だった。だが、ここから物語は急激に進んでいく。

「先生、そんなことが本当にあったとしても証明のしようが無いじゃないですか」

「岡くん!宇宙に行けば全て分かるんだって」

「そんなこと言ったって……現実的な話をしようって言ったじゃないですか」

岡と石原が軽く口論をしていると、なんの前触れもなく極楽園にあの実業家、宇沢宙が現れたのだ。宇宙へ連れて行く人間を選びに来たのだろうか。石原はここぞとばかりに宇宙へ連れて行ってくれと猛アプローチした。

「今真空について研究を行っている石原宇宙という者なんですが」

「うん、知ってるよ有名だもん」

「ありがとうございます。実は今研究が難航してて、唐突ですが実験の為に宇宙に連れて行ってくださったり、資金を支援して下さいませんか?」

「おお!唐突だね。でもいいよ」

「いいんですか!?」

「うん。お金はまだよく分からないからあげないけど、宇宙になら連れてってあげるよ。いいおっさんなのにこんなにキラキラした目をした人久しぶりに見たからね」

「ありがとうございます!!」

(よし!これで宇宙に行って絶対真空が作れる)

なんと、ものの数分で石原は宇宙行きのチケットを手に入れてしまった。そして石原の考える絶対真空の作り方とはどのようなものなのだろうか。

数ヶ月後、石原と岡は宇宙へ向かうロケットの中にいた。宇宙へ向かうのは彼らだけではない。加地と雄平も抽選で選ばれ、宇宙へ向かうのだ。

「皆さん今日もこんにちは。You Hey.です。今日はこれから僕が宇宙に行く様子をライブで楽しんでもらおうと思ってます。ロケットの中はこんな感じでーす」

「雄平はしゃぎ過ぎだぞ」

「この人はロケットの持ち主、大金持ちの宇沢さんです」

ロケットは賑やかな雰囲気で、宇宙へ向かった。宇宙の有名スポットを一通り周り、ロケットは研究の場所へ進んでいく。研究を行う場所は、かなり絶対真空に近い宇宙空間だ。石原と岡はみんなに手伝ってもらいながら実験を始めた。まず、様々な材質の密閉容器を宇宙空間へ出して真空空間を容器内に作った。容器からも分子などが出ている為、完全というわけではないがかなり絶対真空に近い空間だった。だがこの空間はすぐに真空ではなくなる。ガラス容器でも起きた小さな穴が空く現象のせいだ。石原はこの現象をまず解決する為に様々な材質の容器を持ってきたのだ。石原の仮説では真空内の粒子には、他の生物から身を守る為に自分の周りを囲む物質を少し破壊して逃げる性質がある。石原はこの粒子が破壊できない物質はないのか探す為に実験を始めた。実験はかなり順調に進みその物質はすぐに突き止められた。その物質とは「水」だった密閉容器内を真空にしてそれを水の中につけると、真空内の粒子が逃げ出す現象は無くなった。次に、石原達は真空内の粒子の観察を始めた。こちらの真空空間は地球で作った真空空間と大きく違い、原子や分子がかなり少ししか含まれていなかったので、じっくりと謎の粒子の観察ができた。

「あれ、先生、これって変ですよね」

観察の中で岡がある違和感を発見した。この真空内の謎の粒子は今まで突然現れたり消えたりを繰り返すとされていた。しかし、そんなことは起きないのだ。恐らく、粒子が逃げるのをある学者が見て、突然消えたと思ったのではないかと岡は予想した。それからも石原と岡は実験を続け、これまでの現象の理由づけをしていった。

「先生、この実験の結果から考えたのですが、小学生やAIが真空空間を観測した時ガラスに穴が空く現象が起こらなかったのは、粒子が子供達に対して恐怖を感じなかったからではないでしょうか」

「先生、粒子が物質を破壊する仕組みとして、物質を破壊しているのではなく、物質を自分自身のクローンに変化させてるのではないでしょうか」

今回の実験では岡が珍しくかなり良い働きをしていた。

実験が終了してからも2人はこれからの研究についてじっくりと話し合いを始めた。

「石原先生の言っていた絶対真空の作り方ってなんなんですか」

「うーん出来るか分からないんだけど、真空の粒子を固体にして加工して密閉容器を作って、その中を真空の粒子をでパンパンにするってやり方なんだよ」

「うーん正直難しそうですね」

「岡くんも真空の粒子が生き物なんじゃないかって今は思ってるよね」

「はい、それは今回の実験でなんとなく理解できました」

「取り敢えず日本に帰ったら、そのことの証明と、粒子が物質を自分自身のクローンに変化させられるということをうまいこと論文にまとめようか」

「そうですね」

日本に戻った後、石原は衝撃的なことを言い始めた。

「岡くん、話があるんだ」

「何ですか」

「真空空間の研究、これから全て岡くんに任せることにするよ」

「え、どういうことですか」

「別の研究したいことが見つかってね」

「突然そんなこと言われても」

「じゃあ頑張ってね」

それからというもの、まず岡は資金集めを始めた。向かった場所は宇沢の家だ。

「宇沢さん、宇宙人を探す活動をしているんですよね。実は宇宙空間で生物が見つかったかもしれません」

「え!どういうこと!!!」

「実は……」

岡は真空内の粒子が生きているかもしれないということを丁寧に説明した。すると、

「すごい!すごい!それはすごい!是非支援させてくれ。お金は沢山あるんだ」

岡は宇沢からの資金援助を受け、研究を始めた。地味な研究の積み重ねだったが、証明の材料となるデータをコツコツと集めていった。

数年後、岡はノーベル賞受賞式に、石原は極楽園にいた。「僕に研究の全てを教えてくださった石原宇宙さん。様々な面で僕を応援して下さった宇沢宙さん。名前に宇宙と入っているこの2人には感謝してもしきれないほどの恩をいただきました」

岡は真空空間内の粒子が生物だということを証明した論文でノーベル賞物理学賞を受賞した。今ではその粒子は様々なことにその性質を有効利用されていた。岡は今、その粒子を生物的な観点から知能や運動能力の研究をしているようだ。

石原は宇宙から帰ってきた直後、末期ガンが見つかり、現在は極楽園で暮らしていた。

「石原さん、お客さんです」

「よう!元気かい?」

「あ、宇沢さん。お久しぶりです」

「いやー、岡がノーベル賞を取るなんてね」

「それも僕の取れなかった物理学賞をね」

「受賞式で俺とお前の名前を出してたぞ」

「うん、見てました……本当に…良い助手だよ」

「はははは!そんなに泣かれたらもらい泣きもできないな。岡はまだまだ石原先生には敵わないって言って研究頑張ってたぞ」

「はい……まだまだ死ねないですね……」

「そうだな」

実験の手伝いをしてくれた加地と雄平も、本当の極楽から岡を祝福しているのだろうか。

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