20話7Part ヴァルハラ滞在最終日の過ごし方⑦
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4階の瑠凪の居室に鐘音が駆け込んできた、と帝亜羅は声と音から察した。今までに帝亜羅が聞いた事も見た事も、なんなら想像した事すらないほどの鐘音の慌てよう。
帝亜羅はとりあえず、何があってそこまで焦っているのかを聞くために耳を澄ました。我厘もその横で仁王立ちしたまま、上の階の音を聞き耳を立てて聞いている。
「あ、鐘音。どーしたんだよ」
「或斗が、或斗が!!氷に......!」
......或斗さん?
鐘音の必死に声を上げて瑠凪に伝えている様子を声を聞く事で察している帝亜羅は、その恐らく大変な状況になっているであろう人物の名を聞いて、猛烈な不安に駆られた。
......そして帝亜羅には思い当たる節がいくつかあるからだ。東京で少しだったがイヴと一会と相見え、或斗と葵雲、的李、聖火崎が戦闘した時から、或斗はずっと体温が低い。或斗がいる部屋だけ気温が下がっている事があった。
そして何より、本人も自分の体の異変を自覚していたらしく、冷水に直接手を触れないようにしていた。しかし今現在日本は冬、お湯で茶碗を洗ったり洗濯をしたりしている程度、何らおかしくはない。
そこすらも計算してやっていたというのか、はたまた時期的に偶然そうなり発見が遅くなってしまったのか。
......どちらにせよ、或斗がまずい状況であるというのは確かだ。
「或斗が、氷がどうしたんだよ」
「見た方が早い!急いで!!」
瑠凪のぶっきらぼうな声が響き、鐘音の尻に火がつく返事が聞こえてきた。
やがて上の階に人のいる気配はなくなり、気づけば同室でパソコンを操作していたはずの晴瑠陽も居なくなっていた。帝亜羅は自身が殺されかけた相手である我厘と2人きりで、1人だけ気まずそうにしながら10数秒ほど夜風に吹かれた後、
「......あの、わ、私達も向かいませんか......?」
と小声で我厘に声をかけた。
「......そうだね」
我厘の返事を聞いてから、帝亜羅はベランダに背を向けて5m程先を行く鐘音と瑠凪の背を追いかけ、やがて1つの部屋にたどり着いた。
「い、......つ、ぐ......」
その部屋の中では、マモンとダンタリオン、ファフニール、望桜、晴瑠陽と2人のメイドが喉の奥から絞り出すような喘ぎ声を出す或斗を取り囲んでいた。
「はぁーっ、はぁーっ、はあーっ......っぐ、つ、ぎ......」
ピキピキピキ、という音ともに蒼色の氷が或斗の体の表面に薄く広がっていく。......間違いない、あの時の、一会の持っていた槌の氷だ。
......葵雲と的李、聖火崎がイヴの元に向かった後に翠川と帝亜羅がやってきた部屋、そこでは或斗が部屋の壁に腰かけて目を閉じ、薄い胸板を上下させながら苦しそうに座っていた。
少し雑な作りながら本格的な、綺麗に装飾された教会。しかし置いてあったものは壊れていたり傷ついていたり曲がっていたりしていたし、床は崩落して、その瓦礫の中心からは冷気のようなものがプシューッと噴出していた。
部屋中に満ちた冷気が体感的にも精神的にもずしっとした固く重苦しいもので、壁や床などは所々凍りついていた。蒼色の氷は、まるで生きているかのようで、気味悪く蠢いている印象を帝亜羅に植え付けた。
......或斗さん、大丈夫なの......?
「アスタロト......」
「或斗さん......!」
或斗の応急処置を続けるマモンの横から顔を出し、かつての自身の忠臣の弱りきった姿を改めて目の当たりにし、思わず目を伏せる鐘音。
......堕天使で自分よりも格上の存在、それが鐘音にとっての或斗......アスタロトの第一印象であった。
明けの明星、暁の子......なんて逸話が魔界でも山程語り継がれてきたかの大天使聖ルシフェルの右腕で、今まで智天使として沢山の"悪"を屠ってきた彼が"堕天使"として、鐘音ことベルゼブブの血縁種族·蝿蟲族にやってきた時には、全員が天変地異が起こるのではと杞憂したものだ。
『サタン様の命で、ベルゼブブ様の世話をするよう仰せ使いました。魔王軍魔王側近補佐官、アスタロトです』
ピシッと型にはまった挨拶を当時のベルゼブブのお付きの者に、握手混じりに行った。その後に、背から生える大きな漆黒のふわふわの翼とか、内包する魔力量とかその他色々に完全に気圧されて済で縮こまっていたベルゼブブに近づき、
『怖がる事はないですよ。少しの間だけ、あなたの身の回りの世話をこの者達に代わって行うだけですから』
そう優しく微笑みかけた。軽く頭を撫でる手の動きがどうにも心地よくて、撫でられる度に何度も手に擦り寄ったのを未だにはっきり覚えている。
優しい面もありながら、敵には容赦なく攻撃を仕掛ける。ゆるっゆるふわっふわな見た目としっかり者なのに天然で、それでいてドSで拷問好きな超絶キャラの濃い部下の事を、ベルゼブブは誰よりも慕っていながら、誰よりも信頼していた。
「っあ、だ、大丈夫で......ぎぁ、......です、から......」
「無理すんな!!......マモン、これどうすればいいんだよ......!?」
「なんとなく見当はついておる、あと1分もすれば発作は収まるじゃろう」
......自分の元忠臣を、ここまで苦しめたのはどこのどいつだ。
一会、そう言われても見た事も会った事も戦った事もない鐘音には分からない。ただ青色の氷を操る、自分の大切な仲間の1人を、ここまで痛めつけてくれた下賎の輩。そう思っている。
瑠凪の慌てふためく声も、マモンのどこか落ち着いた返しも遠くに聞こえる。
自分は落ち着いているようで、かなり頭にきている。......外に出よう。外に出て、その"一会 燐廻"とかいう下衆に、自分のこの手でこの世に産み落とされた事を後悔するくらい惨い死を与えてやろう。そう鐘音が考えて、皆に一言だけ声をかけて外に出ようと思い、立ち上がった時だった。
「......ちょっと、外に出てく」
「鐘音くん」
「......何、帝亜羅」
俯いたまま立ち上がって、出ていこうとする鐘音を静かに一括して引き止めたのは、意外にも両片思い中で絶賛仲違い(?)中の帝亜羅であった。
普段の臆病な彼女からは想像できないほど力強く、鐘音の名前を呼んだ。
「あと1分もすれば発作も落ち着くって。鐘音くん、確か或斗さんの元上司だよね?一緒にいてくれた方が、或斗さんも嬉しいはずだよ」
「っ......」
帝亜羅の言葉に息を呑んで黙り込む鐘音。
「......う、けほ......」
そして気づいたら、或斗の発作がマモンの言った通り落ち着いていた。氷も蒼さが抜けており、マモンの近づけた蝋燭の炎で、少し時間はかかるが綺麗に溶けた。
「落ち着いたか。......とりあえず今から風呂に入ることだ。体の表面の氷、これは術者本人が操っているものとは違い、熱でも溶けることを先程確認した」
「分かりました......う、けほっけほっ......」
マモンの注意喚起に、いつもよりもわりかし素直に首を縦に振る或斗。涙が滲んだ目で辺りを見渡し、体がきちんと動くかどうかを確認してゆっくり上体を起こした。
どうやら足と手先が若干動かしにくいらしく、力を入れてはあれ......?と首を傾げている。
「それと......生活習慣を乱さん事じゃ」
「へ......?」
「違うやつも多々あるが、病気ってやつは病原菌やウイルスが体内に入り込んだ時点では発症や重篤化はしない。そこからそれらが死滅するまでの間に、免疫力や抵抗力が下がるタイミングがあったら、そのタイミングで発症及び重篤化するのじゃ」
「は、はあ......っけほ、」
「汝の氷の場合も似たようなもので、そっち系等の抵抗力が下がったタイミングで発作が起きるらしい。まあ病気にかかるなどは仕方がないが、生活習慣に至っては自己責任、自分でどうにかできる。じゃから、大食いや大飲みした場合には、その分のカロリーを消費するとか、運動不足を減らすためになるべく歩くとか、できることは何でもすることじゃな」
「はい......」
もはやマモンの言葉に咳をしながら頷く事しか出来ない或斗。まだ何か言いそうなマモンの方に視線を向けて、次の指示を待っている。
「とりあえず、風呂に入ってこい。でも1人じゃ入るのはむずかしいじゃろうから......望桜殿、悪いが共に入ってやってくれんか?」
「いいぜ!!ってかむしろ一緒に入らせてくれ!!」
思わぬ所で運というかチャンスが巡ってきた望桜は、尻尾をブンブン降って庭駆け回る犬を彷彿とさせるくらいテンション高めに返事をした。
「望桜さん......よろしくお願いしますね、けほっけほっ」
「おうよ!!」
こうして望桜は再びラッキースケベ(?)のチャンスを頂いたのであった。
──────────────To Be Continued───────────────
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