14話5Part 化物(?)襲来⑤
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『うっ、つー......』
......目を開けたら真っ白な壁、壁、前後も上下も左右も皆真っ白な壁の空間に、意識が完全に覚醒した望桜はいた。
......どこだ、ここ......?
『っ......お、い、痛くない......?それに......?』
しかしそれも束の間、視界が白に慣れてきた頃に壁は完全な人工物の綺麗なものではなく凹凸のある雑な作りのもの、もっと詳しくいうと雪でできた壁に囲まれた小さな空間であることが分かった。
望桜は周りをおおっているものが雪だと自覚して、じわりじわりと指先や手足の感覚がより鮮明で生々しいものになっていくのを感じた。その感覚は研ぎ澄まされていくのに、何故か指先を動かそうとしても動かせなかった。
望桜はただ周りを地震が見渡せる範囲でのみ見回してみて、そして先程までの出来事を思い出して体に痛みも何もないことに少しだけ相違感を感じた。......どうやら辺りを見回すことは出来るのに、それ以外の体を動かす一切の行動ができないらしい。
他に何もすることがないし、情報収集もしておこうと思って辺りを見回し、雪でできた小さな空間にいること、目立った出入口がないこと、そして望桜の腿を枕に眠っている少女が居ることが分かった。
『うお、あれ......?』
......刹那、体が勝手に動きだした。......どうやら体の主導権は望桜ではなくその体の持ち主が持っているようで、望桜は今は体に勝手に取り憑いただけの霊のような状態らしく、寒いとか触ってるとかそういった感覚は伝わってくるがそれも直接的に触れているはずなのにどこか間接的に鈍い。
『すっげー、雪でできてんのかここ?ほええ〜......お、この子......幼女か?フレアリカより少し幼いくらいか......うわ、』
「......んん〜............ふーっ」
望桜がなんとはなしに周りを見回していると、自身が今取り憑いているであろう体の持ち主のすぐ横の幼女が目を覚ましたのか上体を起こして軽く伸びをした。目を擦りながら立ち上がったその体は、フレアリカよりも少し小さいくらいなのに細さはあの子とは比べ物にならないほど細かった。......おいおい、いくらなんでもあれはやばいだろ......てかあの髪の色、どこかで......
「......あ、ベル......起きたんだね」
......ベル、と呼ばれた幼女......否、フレアリカより"幼い"のではなく"小さい"のであって、年齢的には彼女より少し上の......その少女はやがて嬉しそうな表情を浮かべて望桜の......1人の少年(声の高さと質的にそうなのだと望桜は確信した)の方に向かってやってきた。この少年が望桜が今現在体に憑かせてもらっている人間であり、体の主導権を握っている人物のようだ。
そして望桜の目に止まった少女の髪の色......記憶の中にはあるのだが誰のものだったのか思い出せないその色は、綺麗な紫色......ではなく若干黒の交じった、でも人によっては"完全な真紫"と呼ぶであろう色だった。
『きれーな紫色だなー......』
「うん!お兄ちゃんがいてくれたおかげで、わたし寒くなかったよ!ありがとう!」
「ははは、それなら良かった」
......そしてその2人は兄妹らしく少女から"お兄ちゃん"と呼ばれた少年は、嬉しそうに笑い声をあげたあと少女の頭を撫でながらゆっくり立ち上がった。少女は嬉しそうに目を細めてその手にすり寄ってきた。
「ふふ......よし、それじゃあ行こうか」
「............もう行くの?」
そして少年もまたそれを嬉しそうに眺めた。しかしその後に続けて少女に何かを告げた時には、打って変わって真剣な眼差しでその小さな体を瞳に捉えていた。その言葉に少女は不安げな表情を浮かべた。
「うん、ごめんねベル......僕はベルをもっと寝かせててあげたいんだけど、そろそろ仕事が......」
「ううん、いいの。お兄ちゃんががんばってお仕事するあいだ、わたしもがんばって隠れるから!」
『お、おいおい......隠れてないといけないってどんな国だよここ......!』
「ほんとにいい子......ごめんね」
「お兄ちゃんが悪いわけじゃないんだからあやまらないで、だいじょうぶだよ!わたしのことは気にしないで!がんばってきてね!」
「うん......それじゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃい!」
雪の壁の側面を削って必要最低限の大きさの穴を開け、少年は外に出た。そして中から少女がその穴を完全に塞ぎ切るのを見終わると、踵を返して全速力で駆けだした。
『おわー、すっげー足速え、やっぱラグナロクの人って身体能力たけえな』
「えっと、ここから南に400mが今日の仕事場だ」
『......あ、あそこは郊外の山ん中だったんだな。......ん?うぃず......おーと連合......国......ああ、ラグナロクがある国の名前か。ラグナロクってなんかの国の中央部だもんな』
望桜は少年の地図を見やって、"ウィズオート連合国 北方"と書かれているのと赤丸のつけられた位置から北に400メートルの位置に"ベルの寝床"と記されていたのに
......ウィズヴォート連合国、中央部に王都ラグナロクが存在している国で、西方·聖教大教会、北方·移民貿易機構、東方·独立振興会、南方·復興支援社がある。......この雪の量だと北方か......?
『ん?てことは......ここもラグナロクかよ!?』
望桜は自身が知っているラグナロクの......人間界の光景とあまりにも違いすぎて、ただ呆然と過ぎ去っていくその光景を眺めることしか出来なかった。
材料はレンガなのに粗末な造りの家が立ち並んでいる。路上でガリガリにやせ細った貧民が大勢倒れていて、その大半が感染症の患者だという事が望桜には見て取れた。
見て分かる症状から軍の文献に書いてあった中の、白磁銅病という感染症だろうと仮定した。あれは本来ならしっかり治療すれば治る感染症だが、路上の貧民達の様態から察するにもう長くはないだろう。......ただその景色に唖然とすることしか出来ず、どうしてあんな目に......と望桜は思った。
そしてその貧民達に交じって白骨化した死体も目に映り、望桜は背筋を薄ら寒いものが通るのがわかった。あそこまで重症化している患者も治療されておらず、死に絶えても道脇に避けられるだけで、白骨化してもなおそのまま放置され続けるのがこの街では当たり前らしく、走っている少年も行き交う人々もそれを見て何ら驚きはしていなかった。
その光景を見続けているうちに望桜はだんだん腹が立ってきて、"日本"という場所がどれだけ平和なのか、望桜が青森の高校生だった頃や今の的李達と一緒に暮らしている日々が"あたりまえ"の生活ではないことを改めてひしひしと感じた。
『っ......おかしいだろ、これ......!貧民達がああなのは金を持ってないから、あいつらが貧乏なのが悪いってか!?飢えと寒さで死にかけようが、感染症が重症化しようがお構い無しかよ!!』
......そして何より1番望桜の逆鱗に触れたのは、死体の数が減らないまま街の中央部に入って立派な家が見え始めた時、その立派な家々から出てくる富民達が貧民達の事をある者は邪魔くさそうに、またある者は罵声を浴びせながら足で蹴りつけていた事だ。
必死に泣いて拒もうがそんなのはお構い無しに足で蹴り、棒で殴り、銃で腕や脚を撃つ。......それで死んだら、弱くて貧しいお前らが悪い。そういった目で貧民達を見つめる富民達の目を抉りとってやりたい、そう望桜は自身の腸が煮えくり返るのが分かった。
......そんな中、少年の目に1人の貧民が留まった。それで少年は足を止め、望桜もつられてその貧民を見つめた。その貧民を取り囲んでいる富民が手を振りあげ、一気に下ろした。その瞬間、少年がうっと息を詰まらせて、目を背け、
「ごめん、ごめんフルル......ごめん、ごめんね......」
と謝罪の言葉を口にし始めた。その言葉がひとつ重ねられる度に、望桜は心が重く沈んでいくようでならなかった。
『......あいつ、こいつの友達か......』
「............」
『......くっそ、胸糞悪い......』
そして急に立ち止まっていつの間にか溢れていた涙を少年は拭い、ひとつの黒い建物に入っていった。
───────────────To Be Continued──────────────
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