31話9Part 晴耕雨読⑨
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キュッ、......
「......ふぅ、」
......ウィズオート皇国東方。様々な宝石で飾られて出店が立ち並び、街の中央広場には常に楽しそうな民謡のような歌が流れている。
ウィズオートの四方の中で最も活気溢れると言われているこの地方は、主に大陸東にあるとてつもなく大きな"ヴァルハラ独立国家"と呼ばれる大富豪·アイン=レルベルクが経営しているホテルの影響を大いに受けていた。
翠彗暁宮と呼ばれる、時計塔のような城のような煌びやかな建物から雰囲気をそのままにどこか華やかな様相の東方市街地は、それでいて庶民的でお手軽な空気を纏っている不思議な場所。
ウィズオート皇国に属してはいるものの、ヴァルハラの影響が大きいために他の地域よりも税金が少し低くなっているため、他3方からの人口流入が激しく、活気がありながら裏では色々と物騒と狂気が渦巻いている。
......そんな場所にある、石造りで頑丈そうな建物の2階。
聖火崎と或斗の2人と別れて、数時間ほど後。
自身の立ち上げた民間軍事組織·NeutralGriffの事務所にある自室の、洗面所の鏡の前。
出していた水を、白色の水受けから赤がなくなったのを見計らってから留めて、カイルは小さく息を吐いた。
「......ったく、何でこんなことになんだよ......」
そうぼやきつつ鏡に映った自分を見遣ると、酷く不機嫌そうな顔をしていた。
......或斗を抱き締めていた時、聖火崎に異才の事を話していた時、仲間の紹介をしていた時。
時々は全力で不機嫌を表に出しつつも、常に愉快げに歪ませていた......無意識のうちに歪んでいた口許は、今は寧ろへの字に曲がっていそうに見えるほど酷い表情だ。
「うわ、気付いたら部屋にいると思えば......随分酷い顔してるっすね」
「他人に改めて言われると腹立つわぁ、それ......」
......いくら考え事に熱中していたとはいえ、軍人である自分が人の気配に気づけないとは、不甲斐ない......
背後から聞こえてきた声に、カイルは思わずため息を漏らす。鍵のかけてある自分の部屋に入ってこられる人物は、カイルは1人しか思いつかなかった。
「......ルース」
......ルース·ロヴァーグリーナ。カイル自身が代表を務めるNeutralGriffの副代表であり、大事な仲間の1人。
「......結構落ち込んでそうなあんたに言いたくはないんすけどね、」
ルースのどことなく不機嫌そうな声色に、カイルはやや不愉快を滲ませた声を漏らす。
「なに、」
「......仮にも自分の組織の代表の、めちゃくちゃカッコ悪い顔なんて見たくないっすよ」
「......勝手に部屋に入ってきておいて、そんなこと言う?っていうか、」
「......」
「......自分の生き別れの大事な大事な弟がさ、まさか敵方にいるとは思わないじゃん」
......8000年、会うことの叶わなかった弟。
血も繋がっていないし、何なら、天界の訓練施設の宿舎にて同じ部屋で寝ていた時も、その後施設を出て天界の軍人やら役人として働くようになってからも、特別仲が良いという事はなかった間柄ではあったが"もう2度と会えいかもしれない"そう分かった時、自分は酷く狼狽したのを覚えている。
無論、他の天使の奴らからは"仲が良いね"と言われる仲ではあったが、実際の所或斗が"カイルの事を気遣って"という名目で、カイルを残して天界を出る事を決めるくらいの関係であった、という事だ。
人当たりが良くて素直で、表裏のない或斗は天界のお偉いさんの集う神殿の役人......というより、執事とか給仕係といった、そんな役柄に落ち着いていた。
見た目が人間でいう所の10代~40代位までと比較的"若い"人達が多い天使だが、実際は中身は100歳を超えている者ばかりで、実力主義の世界の中で切られぬように、失望されぬように血の滲む様な努力を重ねてきた彼等は一見優しそうに見えても、実際は揃いも揃って腹の中に黒い物を抱えているのが大半だ。
そんな世界で、前述の通り人当たりが良くて、心の底から素直で、おまけに訓練施設の特待生上がりの成績優秀なエリートである或斗は、注目されぬ訳がなかった。
日本で例えるならば内閣やら国会を纏めたような場所である神殿に新卒ですぐ雇われて、重くて堅苦しい空気になりがちな天使の幹部会議の空気をふわっ......と和ませ、それが天界の幹部達の目に目新しく映ったらしい。
色々な所で会議が開かれる度に呼ばれるようになり、その度に或斗は天界中に存在を知らしめる(本人は無意識だが)ようになっていた。
......そんな時だった。天界の中でも1番偉い"熾天使"であるルシファー......瑠凪が、或斗に声をかけて自身専属の付き人として雇ったのは。
それ以降、或斗はカイルに瑠凪の事をしきりに話すようになって、それを何となく聞き流しつつ、"仲良いんだな"なんて漠然とそう思っていた矢先に、瑠凪が堕天し、それに続くように或斗も天界を去っていった。
「......本当は僕も、すぐにでもあすたろを追って下界に行きたかったよ?行きたかったけど......」
ずっと黙り込んでいたと思えば急にそんな事を言いだしたカイルに、ルースは同情するような声で、
「センパイは天軍の元頭っすもんね。それで、そう簡単には出て行けなかったんすよね?」
と、返してやった。
「......まあ、そう、そうだよ。天界の奴らなんてクソほどどうでもよかったけど、そればっかりは僕の力じゃどうにもなんなかったなぁ〜」
ルースの言葉に若干気が緩んだのか、カイルは軽く微笑みながらそう独り言ちる。
「......昔話もいいっすけど、客人が応接室で待ってるんで早めに出て来て下さいっすね」
「............分かった」
カイルの独り言を聞き流してから、くるりと反転して洗面所から出ていったルースの後を追おうとして、
「......よし、」
鏡の中の自分が綺麗に笑っているのを確認してから、カイルは自室を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「遅れてしまい申し訳ありません。待たせてしまいましたか?」
「いや、今来た所じゃ。気にするでない」
NeutralGriff事務所の応接室。
客人用のソファーに腰掛けて上品に珈琲を啜っていたのは、ヴァルハラ独立国家のオーナーであるアイン=レルベルク......こと、大悪魔·マモンだ。
乱れた髪を整えながら駆け寄ってくるカイルの方に視線を寄越しながら、どす黒い焦茶色が収まったカップを静かにソーサーの上に置いた。
彼女は幼い容姿をしているのに、溢れ出る貫禄と真剣さから、上品且つ大人びたその動作が酷く自然に見えた。
「......で、どうじゃった?今回の案件は」
案件、という言葉にカイルは反応して、ふっ......と笑みを零す。マモンはその表情の変化を特に気に留めず、言葉の続きを待った。
「まずまずと言った所ですかね〜、僕1人で事に当たったのですが、あまりいい成果を得られませんでした。彼等は既に切られた後の捨て駒かと」
「そうか......」
にこにこと笑いながら話すカイルを見遣りながらも、マモンは小さく呻く。落胆混じりのそれに、カイルは小さく苦笑する。
「......まあ、元より期待もしておらんかったが、まさかここまでとはな」
「悪徳人は無駄に頭が回りますからね〜。基地だけでなく、一応宿舎の方も全室漁ってみたのですが......まあ、特に何もありませんでした。隠し部屋の類も複数見られたのですが、中には手篭めにされた方が数名いらっしゃった程度でしたよ。それはそれは、酷い状態で......キスマーク噛み跡鬱血痕その他諸々......」
「聞いていて、あまり気分のいい話ではないのう」
「でしょう?僕も流石に引きましたね〜......いっその事快感で何も考えられなくするぐらいには抱き潰してあげればいいのに、遊びに使われた後直ぐにしては意識もはっきりとしていたようですし」
「呻く様を見るのが楽しいのではないか?」
「好きな人ならともかく、他人が喘ぐ様のどこが面白いんだか......」
「面白がる人がおるから、裏ビデオが売れるんじゃろう」
「あ、確かに〜wwいわれてみればそうですねww」
「吾輩もあれのどこが面白いのかは分からんがのうww」
からからと笑いながら話す2人だが、話している内容はそこそこえげつない。
そんな2人の様子を遠巻きに見つめながら、NeutralGriffのメンバーの1人であるアーネストは、軽く引いていた。
「......で、その者達はどうしたのじゃ?」
「勿論、楽にして差し上げました」
「汝もなかなかじゃな」
「恐縮です」
「褒めてはないんじゃがなぁ......」
急に真剣になったと思ったら変わらずえげつない話をしているので、アーネストは客人用のお茶菓子をいつ出そうかと震えながら後ろで控えている。
もう、存在すら知らせずにいっその事食べてしまおうか......と考えていた所に、
「もし、そこの若人や」
「っ!!」
マモンから声を掛けられたので、思わずビクッ!!と体を跳ねさせてしまった。
「ははww何もそんなに驚かなくとも、ただ、その腕の中に納まっておる茶菓子を頂こうと思っただけじゃ」
「あ、す、すんまへん今お出しします!!」
マモンの言葉にアーネストが慌てて茶菓子であるストリーチヌィとクランベリーの砂糖漬けを机に出すと、マモンはくふふwwと含み笑いをしてからクランベリーを1つ、口に放り込んだ。
「緊張しなくても大丈夫ですよ......むぐ、聖人君子でないというだけで、ん......悪い人ではないですから。はむっ、んん〜♪」
それに続けて、カイルも切り分けられたストリーチヌィの1つをぱくり、と頬張って口を手で覆いながら咀嚼している。
「一片も汚れていない人間の方が珍しかろう」
「んく......確かに、それもそうでした」
「ほな、ウチはお先に失礼します......」
仕事の話し合いから完全におやつタイムに移行しつつある2人を余所目に、アーネストがその場から立ち去ろうとした時だった。
「アーニー、」
「ど、どしたん......?」
今度はカイルがやけに弾んだような、わくわくしたような声で名前を呼んできたので、表情に若干の戸惑いを滲ませながら振り返ると、
「学校生活って、楽しいですか?」
「へ......?」
満面の笑みでそう訊ねられて、想像の斜め上の言葉に思わず間抜けな音が口から漏れてしまった。
─────────────To Be Continued──────────────
ご精読ありがとうございました!!