31話3Part 晴耕雨読③
ここまで読んでくれてる方ありがとうございます!!
まだまだ付き合うよっ!って方は下へ⊂('ω'⊂ )))Σ≡GO!!
「僕のかぁわい〜い"弟"に、キスされたんですから」
「っ、」
頭蓋骨が割れる鈍い音と共に、領主の頭を易々と潰してしまった。
そして、"弟"という単語に反応してピクリと反応した或斗の方に、血で汚れたままの腕を大っぴらに広げて、満面の笑みで駆け寄ってくるではないか。
「あすたろ〜!!」
「わっ、」
「こんな所で再会できるなんて夢のようです......!まあ、ここにいる事は知ってて来たんですけど......まさか、本当に会えるなんて......!」
「......ぁ、ず......、あず......?」
そのまま勢いよく抱きついて、未だに呆然としている或斗をぎゅうぎゅうと締め付けながら嬉しそうに言葉を羅列していく天使。
そんな天使に対して、親しみと親愛を込めて呼んでいた愛称をうわ言のように反覆する或斗に、
「はいっ!!僕ですっ、あすたろの頼れるお兄ちゃん、アズライールですよ〜!!」
天使......ことアズライールは、いつの間にか取れていたフードを気にする事もなく、ただただ或斗の事を抱き締めてにこにことしている。
「......ぅあ、あずっ、いきなりぎゅうって、ちょっと苦しっ......ぁわ、うっ」
「ふふふ♪やっぱりあすたろ〜は可愛い♪」
「あず......」
「すみません♪でも本当に嬉しくって......!」
あまりにも唐突に抱きつかれてあわあわと戸惑う或斗に頬を擦り付けながら笑みを浮かべるその光景は、かなり遠目から見ている聖火崎にすら感動(というより衝撃)の再会〜という雰囲気がありありと伝わってきた。
『......ねぇ、あんた私から見えない所で脅されたりとかしてないわよね?』
『..................あ、すまない。ちょっと............いや、大丈夫だ。多分、大丈夫......』
『あぁ、そう......』
聖火崎からのどこまでもアズライールの事を信用しきれていないのが分かる問い掛けに、或斗は自身を抱き締める義兄に聞こえぬようテレパシーで返してやった。
「んも〜、ずっと探してたんですよ〜?魔界にいたとはいえ、時々はラグナロクにも顔出しに来てくださいよ〜!!」
「え、その、えっと......」
「ふふ、分かってますって♪魔力排斥の文化や意識が根強く残るウィズオートに、魔力の塊である悪魔のあすたろは入りにくいんですよね?でもそれなら心配しなくても大丈夫ですよ!僕が悪魔のあすたろでも堂々と街を歩けるように、色々と手回ししてあげます。東方でいいですよね?僕の組織事務所があるのは翠彗暁宮のすぐ近くなので」
「いや、まだ行くと決まったわけじゃ......」
「あ〜楽しみだな〜時計台麓の城下町デート!!皇都や西と違って、金回りが良くてご飯も美味しくて人も多いし、街も綺麗ですし......何かあればヴァルハラに駆け込めば大丈夫なので、セキュリティ面も安心安全です♪」
「はぁ......」
......2人共血で汚れてなくて、すぐ近くに領主の遺体と潰された頭さえなければ微笑ましい光景だったんだろうな......
そう、目をキラキラと輝かせながら何かしらを語っているアズライールとそれに気圧される或斗を見ていて、聖火崎はつくづく思ったのだった。
雰囲気だけは限りなくほのぼのとしている2人の様子を遠目で眺めている時、
「............ん?」
聖火崎はふと、遠く......方角的に言えば、北、皇都·ラグナロクの方から何かが迫ってくるのを感じ取り、そちらに視線を向けた。
常時とは明らかに違う様相でざわめく木々と、尋常じゃない量の砂塵が舞う景色。
「......、あれは......!」
そして、犇めき合う木々の間を難なく通って来た奴らは、聖火崎が視認出来る数だけでも1万は優に超える、南方地方騎士団所属の大量の騎兵達だった。
「いたぞ!!勇者の皮を被った悪魔、ジャンヌだ!!」
「皇帝陛下の盃を受けておきながら背徳するとは......この罰当たりめ!!」
「悪魔は火炙りの刑に処せ!!館ごと丸焼きにしろ......!」
森を抜けて次々と離屋敷の広い庭に入ってくる騎兵達は、庭にある時計台を模した全長250m程の大きな建築物の上の聖火崎を捉えるなり、"悪魔だ"や"犯罪者め"等の罵倒の言葉を口々に叫んでいる。
「けっ、なぁにが国家転覆を狙う勇者の皮を被った悪魔よ」
(......確かに政府の事は転けさせようとはしてるけど、そもそも潰そうとしてる政府自体が汚職やら独裁政治もどきやらと色々腐りまくってんだからしゃあない......ってか、私がやろうとしてるのは寧ろいい事なんですけど......!)
頭の中でそんな思考を巡らせて、さほど罪悪感を感じていない(というか、感じる必要なんて微塵もない)聖火崎は、下に見える騎兵隊の隊長目掛けて唾をぺっ、と吐き出し、
『......或斗、何か南方の地方騎士団の奴らが来たわよ。ざっと1万人くらい』
『ああ、分かってる』
『......』
ぶすくれた表情のまま或斗に騎兵隊がやってきた事を伝えた。或斗の方も案の定分かっていたようで、特に驚きもされないまま平時と何ら変わらぬトーンで返事が返ってきた。
『あんた......もうちょっと感謝しなさいよね』
あまりにも淡白な返事だったので聖火崎が小言を零すと、
『礼を述べればいいんだな?......わあ〜♪すっごく助かるよありがとう聖火崎ちゃ〜ん☆わざわざ声をかけてくれt......『あ゛ーあ゛ーもういいわありがとね!!』
或斗から巫山戯てるとしか言いようがない口調とテンションで返されたので、途中で遮ってイラッときたのを抑えながら大人しく意識を騎兵隊の方に向ける。
「庭の中央に遺体......恐らく領主様です!それと、人影が2つ!!」
「くっ、間に合わなかったか......仲間もいるぞ!!気をつけろ!!」
「領主殿の仇を討つのだ!!」
見れば、騎兵隊の騎士達はは或斗とアズライールにも気づいたらしく、先程と同じように口々に何かしら言いながら庭の方に慎重に、けれども大胆に躙り寄ってきている。
が、しかし、聖火崎はさほど気にしていない様子で、四方をぐるりと見回した。
「......まあ、ピンチってほどヤバくないわね......」
......聖火崎、或斗、アズライールの3人は全方位から囲まれてはいるものの、法術·魔法が使えて空が飛べる3人にとっては、陸の四方をがっちり固められようが決して危惧すべき状況ではないのだ。
そもそも、いくら鎧で守備を固めていようが相手に魔術師がいた場合、法術や魔術で鋼鉄の鎧程度簡単に溶かすなり貫くなりできるので守備力に加えて機動力も持ち合わせていないと、大抵は魔術師いる方が勝つ。
それが、この世界の暗黙の了解というか常識と化しつつある事柄なので、今聖火崎らを囲んでいる騎兵隊達にはっきりいって勝ち目はないのである。
『はーあ......或斗、こいつら片付けるのは流石に面倒だからそろそろ帰らない?』
なので、無駄な殺生をする気はそこまでない聖火崎は或斗にテレパシーでそう伝え、
「っ、ぅ......」
或斗はそれを受信しつつも上の空で、今自分達を取り囲んでいる騎兵共を殺せたら......そう考えて体が無自覚の内に動きそうになっているのをアズライールによって何とか抑えられている。
「......あすたろ、変に手出ししたら駄目ですよ」
「ぁ、分かってる!!けど、その............うぅ......」
アズライールに抱えられたまま軽い注意の言葉を受けてむっと眉を顰めるその姿は、さながら親から叱られて拗ねている子供のようだ。
「......くくww」
しかしまたうずうずし始めるので、アズライールは思わず苦笑を漏らす。
「あず、何笑って......!」
「いや、あすたろはやっぱりあすたろだなって......ふふふwww」
「あず......」
「ふふ♪あすたろ〜可愛い〜♪」
「......むぅ、」
ぶすくれる或斗にアズライールは可愛いと感想を述べ、それに或斗がますます頬を膨らませる......そんな光景が盗聴器越しにありありと伝わってくる会話に、
『......魔王軍拷問官として恐れられる堕天使様は、実は"ド"がつく程の甘えたねぇ......』
『......』
聖火崎はそう、素直に思念にして或斗に飛ばしてやると、何やら居た堪れない沈黙だけが返ってきたのだった。
「......あすたろが普段どこにいるのかは僕には分かりませんが、余程血の気の少ない日々を過ごしてらっしゃるようですね......今のあすたろ、やっとありつけたご飯を目の前にお預けをくらってるわんちゃんみたいです♪」
そんな事とは露知らずのアズライールは、若干頬を赤く染めて不機嫌そうにしている或斗を抱き込んで頭をよしよしと撫でている。
「し、仕方ないだろう3年は我慢してたんだから!!日本じゃ拷問は犯罪だし......」
「......ふむ、なるほど」
それに半ば逆上して言い返してきた或斗の言葉に、アズライールは何故か納得したように声を上げた。
「距離200m、目標はやはり3人です!!」
「まだ手は出すなよ!!何をしてくるか分からん!!」
......そうこうしているうちに、かなり近い距離まで詰めてきていた騎兵達は、武器を構えて警戒態勢を取ってこちらの様子を伺っている。やはり"騎士は魔術師に弱い"というセオリーを気にしているのか、1部の騎士が不安そうにしているのが聖火崎には見て取れた。
『......ねえ、どんどん距離を詰められてるけど、そんな調子で大丈夫なのよね?』
或斗に小言を言うも、最早脳内に直接響くテレパシーですら意識の外に、騎兵隊の事をそわそわしながら凝視していた。
「......ふふふ♪」
そんな中、聖火崎の耳には或斗に着けた盗聴器が拾い上げた、アズライールの不敵な笑いが響いた。
『......大丈夫ですよ、ベル·カルディア·セインハルトさん』
『............え......?』
そしてその直後に、アズライールからテレパシーで唐突に本名を呼ばれた。
......皇国政府の中でも1握り......いや、1摘みの人間しか知らないはずの、"ベル"という名、そして、自分以外誰も知らないはずの、"ベル"の続き......一族全員が死に絶えた事になっている、"カルディア·セインハルト"の姓を。
『ずっと遠くからこちらの様子を伺っていたんですよね?あすたろが着ているパーカーのフードの下に、黒くて小さな機械が貼り付けてありました。遠いと聞こえないので、これは音を聞くための盗聴器なんでしょう?』
『......』
『それと、これはウィズオートで一般的に使われている型式のものです。そこそこ高値なので平民では買えない......これが買えるほどウィズオートの通貨を持っていて、皇国政府に分かりやすく楯突ける度胸があるのって貴方ぐらいなんですよ。......13代目魔王やその側近らと交友関係にあって、ルイーズのように自分が何かやって犠牲になるような物がない、貴方なら可能なんです』
『............え......?』
(私は或斗以外に、望桜や的李達とも友達だってどうやって......)
困惑する聖火崎に、アズライールからそれ以上何かを言われる事はなかった。
「はぁ、全く......」
......その代わりに、盗聴器はアズライールの不機嫌そうなぼやきを聖火崎の耳に届けた。
「......」
それは、とりあえず沈黙を決め込む事にした聖火崎への、とある警告のようなものであった。
─────────────To Be Continued──────────────
ご精読ありがとうございました!!