30話7Part 宣戦布告⑦
⚠️このPartには軽い残酷表現が含まれています。
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「......はっ、あ......終わった、か......?」
......聖火崎と別れてから10分後。或斗は館中央を縦断する大きな廊下にて、はっとして自身の周りを見回した。
......聖火崎の指示に従って館内の殲滅をさくさくと進めた或斗が抱いた南方領主の館の感想は、中は案外広くは感じなかった。というものだった。
バスケのコート10面分はあるであろう広さの館だが、むしろ閉塞感さえ覚えるレベルで窓が少なく、自然光の入らない"要塞"のような館だった。
下界は時間的な昼夜はあれど、光は常に夕方のような赤いものが降ってくる世界で暗くも明るくもならず、いつ空を見上げても赤い雲が全面を覆っていて晴れる事はない。
そんな、決して心地好いとは言えないような自然光しか得られない下界で、"赤くてもいいから日の光が欲しい"と思わせるような場所が深い洞窟や地中以外にあったとは......と、或斗は敵の殲滅中にずっと考えていた。
そしてそんな事を考えている間に、いつの間にか自身の周囲には血の海と肉塊の散る惨状が出来上がっていたのだ。
「ぅ、ぁい゛っ......」
赤くなった腕では綺麗にならない事を承知の上で、或斗は顔についた返り血を腕でサッと拭い、次に自身がいつでもどこでも召喚できる武器·モルゲンシュテルンを収納魔法でそっと懐に仕舞った。
そして、自身の後方から聞こえてきたまだ存命している騎士の声に反応して、後ろを振り返る。
「っこ、の......しんにゅ、う、しゃめ......」
上手く呂律が回らないのか、噛み噛みになりながらも騎士は或斗を精一杯睨んでからそう、力強く言葉を吐いた。
見れば、出血こそ多量なものの、そこそこ重傷なだけで直ぐに死にはしない程度の傷を騎士は負っていた。
未だに武器を取ろうとする騎士に、或斗はそっと声をかけてやる。
「......全く、強情なものですね......そこまでの傷を負っているのなら、痛いはずでしょう?プライドだとか仁義だとかそういうのには構わず、泣き喚けばいいのに」
「ひ、ぎっ......ぁ、」
先の見えぬ長い廊下に、自身の声と足音、そして騎士の咆哮の声が響くのを感じながら、或斗は騎士に歩み寄り、顎の下を片手でぐっ......と掴んで、強く力を込めた。
みぢ、と音がなりそうなレベルで首を絞め、
「そこで、強情で骨のある貴方に質問です。貴方の上には、南方領主、騎士団長、伍長、それ以外に誰がいますか?」
人の好い笑顔を貼り付けながら、優しくそう訊ねかけた。
「ぁ、っ......ひゅ、......ぅ」
掠れた、呻くような声しか出せないながらも、騎士は必死で或斗の事を丸腰で威嚇していた。自身の筋肉質な太い腕で、自身の首を絞め付ける青年の細腕を力一杯引き剥がそうとしながら。
しかし、
「ぁ、っ!?」
「答えて貰えないんですね......残念です」
無情にも青年の方が力が圧倒的に強く、為す術もないままぎりぎりと絞められている。
それなのに、質問に答える気などさらさらない、と顔に書いてあるかのように尚も睨んでくる騎士に、或斗は態としょんぼりして見せた。
その直後に、
「......なら、こうしましょう」
「っ、!っぐ、」
首に手を置いたまま或斗が手にしたのは、
「 ......!」
「貴方のお仲間の短剣です。普通に出回っているものと比べて、切れ味がいいのが特徴ですね」
南方の地方騎士団が持っている、普遍的な物よりもよく斬れる短剣だった。
特殊な加工がしてあり刃こぼれもしにくい、とても鋭利な短剣。その短剣の刃を、或斗は何故か硬い床でガッ、ガッ、ガッ、と傷つけた。
「......よし、これで準備は整いましたね♪」
床に打ち付けられ、短剣の見事な曲線を描いていた刃は見るも無惨な、ギザギザした質の悪いノコギリのような刃になった。
それを小さな窓からほんの少しだけ届く赤い光に翳してうっそりと笑う或斗に、騎士はただただ鬱血した顔で眼を付けることしか出来ない。
そんな騎士の脚に、
「っと、はいっ♪」
「っぁ!?」
或斗は短剣を思い切り突き刺した。
「〜〜〜〜〜〜〜!?!!!」
騎士の全身を覆っていた硬質な鎧に、いとも容易く穴を開けた目の前の青年。騎士は痛みに悶え苦しんで足を必死でじたばたさせる事しかできなかった。
ありえないくらいに刃こぼれした短剣のせいで刺し口は汚く、神経が余計に傷つけられて騎士の身体を激痛が蝕んでいく。
刺し口から溢れた血が廊下にじわぁ......と血が広がるのにも構わず、或斗は続ける。
「答えて下さい。さっきと質問は同じですから」
「ぃ、ぎっ......ぁぁっ......!?」
答えようとしない騎士の様子を見兼ねて、或斗がそのまま短剣をゆっくりと自身の方に刺したまま寄せた事で傷口はどんどん広がっていく。
ぬちゃ、と質の悪い刃でずたずたにされた肉が溢れる血に混じる音がじっとりと響き、押し広げられた傷口からはとめどなく血が出てくるのに、騎士は死なない。
「ほら、ちゃんと聞いてますから、答えて」
「ふ、ひゅ......ぁ、......」
......或斗がかけているエリアヒールのせいで、1人分の致死量をとっくに超えた血が出ていても、いつまでも死ねないのだ。
短剣が刺さったまま傷口が治っては、或斗が脚の中を刃で抉ったり混ぜたりするせいで繋がっていた神経がまた断ち切られ、その度に脚に新たな痛みが与えられてずっと痛い状態が続く。
痛みに慣れる事ができない、そんな中でもそれでも意識を失わずにいられているのには、流石としか言いようがない。
その事に内心感心しつつも、或斗は続ける。
「早くしてくださいよ〜、俺、結構短気な方なんですよ〜?」
「ひぎっ、は、......」
抉って、治して、斬って、治して、刺して、治して、混ぜて、治してのループを10数秒ほど続けた後、
「っぁ、ぅら、ぃぅっ......」
ようやっと口を割った騎士が、質問に対する答えを息も絶え絶えに口にした。
「緩めてあげますから、もう1回!」
「っは、」
その様子を見兼ねて、或斗は首を絞める力を少し弛めてやった。
「ぅあ、アズライール、様っ......大天使の、アズライール様がいるっ......」
「......、......」
騎士の返答に少しだけ俯いてから、
「......ありがとうございます♪」
「あ゛っ......」
「お仲間と、天国......いや、冥府で仲良くお過ごし下さいな」
或斗は騎士の胸に刃こぼれしていない綺麗な短剣をすっと刺して手を合わせてから、館を後にしたのだった。
────────────To Be Continued──────────────
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