24話6Part 道化達のお茶会⑥
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「強化版......遠距離攻撃法術陣展開、《セラフィム·プリマシャルフシュッツェ》ッ!!」
「っ!!ぷ......」
リーン、ゴーン、ガーン、ゴーン
先程と同じ攻撃法術を、何十、何百倍の神気と火力を以て思いきり打っ放した。場の魔力を圧倒する程の濃い神気に時計台の鐘の音をどこか遠くに聞きながら、的李は口を押さえて呻き声を上げ、苦しげに蹲ることしかできなかった。
「一発で仕留めっ......は?」
「......ああ、なんだお前か」
しかし、威勢よく飛び出していった聖火崎が、攻撃の第2段階であり主攻撃である"爆破"の文を唱えることはなかった。そればかりか、相手の顔を見て不機嫌そうな声を1つ上げた後、そのまま呆然と立ち尽くしてしまっていた。
そんな聖火崎の方を相手も見遣り、1声上げるなり軽く驚いた様子で振り返った。
「こんな所で何してんのよ、或斗。......ってかこの銅像......あなたが倒したの?」
神像に剣を抜き差ししていた白髪白肌の青年は、聖火崎達と同じく謎の異空間に閉じ込められていた餅月 或斗であった。
普段の姿とは全然違う姿に戸惑いつつ、聖火崎は恐る恐る問いかけた。
「ああ。黙らせようと思ってな、煩かったから......っぐ、煩い煩い!!黙れと言ってるだろう!!」
ザクッ!!
明らかに落ち着きのない或斗を、聖火崎は怪訝そうな表情で見ている。的李の嗚咽が木霊する教会に、或斗の怒号と剣が突き刺さる音がうわんうわんと響いた。
「......ちょっと、答えなさいよ」
「っ!!黙れ黙れ黙れーッ!!」
ガッ!!ザンッ!!
「っぷ、き、君達......いった、ん......落ち着き、給、え......」
明らかに噛み合っていない2人の会話に、違和感を感じた的李が刀を支えにして立ち上がりながら2人を落ち着かせにかかった。
「たく......あ、ちょっと的李、大丈夫なの!?」
「あ、ああ......っと、神気が、薄まってきたから、だいぶ落ち着いたのだよ......もう少ししたら、多分普通に動けるようになると思うから安心し給え」
「明らかにきつそうじゃない......あなた休んでなさい、私が戦闘するから」
「は......?」
幻聴が聞こえているらしく、かなり情緒不安定な状態の或斗との会話だから成立してないのだ、そう思っていた的李がいざ聖火崎と会話をしてみると、まるで成り立たなかった。
的李は聖火崎の言っていることがしっかり聞こえているし理解もできている、それなのにちゃんとした会話ができていない。
「ったくもー、2人揃ってなんなのよ......そういえば、何か埋まってたりしないでしょうね、これ」
そう言って神像の瓦礫を物色し始めた聖火崎に、ちょうど聖火崎の背面に位置する扉の前、今の聖火崎の死角にあたる位置で立ち上がった的李が、
「聖火崎、中には多分、何も埋まっていない、と思うのだよ......」
と長い嗚咽の反動から来る息切れでぜえはあと喘ぎながら声をかけつつ、しゃがんで瓦礫を漁っている聖火崎にゆっくりと近づく。
「聖火さき......「わっ!!ちょっと的李、驚かさないでくれる!?ったく......それで?どうしたのよ」
「......やっぱりか」
しかし、声をかけながら近づいてきた的李が後ろからひょっこりと顔を出した時、聖火崎は飛び上がって驚いた。
その反応に、「なんで自分の声がしないところで気づかないのか......鈍いのか、この世界のシステム上でそれに気づかないようになっているのか......」と呆れつつ、的李は現状を理解して聖火崎にテレパシーで声をかけにかかった。
『聖火崎、ちょっと話したいことがあるのだけれど』
「話したいこと?わざわざ魔力消費してまでテレパシーで話したいの?」
『多分君、耳が聞こえていないのだよ』
「......は?」
的李からいきなりそんな事を告げられた聖火崎は、顔で思い切り"何言ってんのあんた"という文句と苛苛を的李に見せつける。
「何わけのわかんないこと言ってんのよ!!ちゃんと私でも分かるように説明なさ......『そして恐らく、あの"タイムリミット"はこの空間に閉じ込められている人々が死ぬまでの時間のことなのだよ。体の機能か臓器か何かが一定時間が経つ毎に持っていかれて、最終的には死に至る。それまでの時間があと2時間と少ししかないのだよ』
そして大声で文句を口にした聖火崎に、的李は淡々と"やっと見えてきたこの異空間の全貌の説明"の1部をテレパシーで告げた。
「どういうこと......?」
「的李さん、その話を詳しく聞かせてください。俺のこれとも関係が......?」
やっと落ち着いたらしい或斗が聖火崎の横に並び、的李に頭を押さえつつそう言った。的李はテレパシーの対象を聖火崎と或斗に切り替え、説明を続ける。
『この世界は、モニュメントが至る所に設置された遊園地だということは2人とも分かっていると思うのだよ』
「ええ、まあ」
「分かってるわ。さっきも大きなボンレスハムに追いかけられてたしね」
『そしてさっきも言った通り、この世界にはタイムリミットがあり、そのタイムリミットがなくなると死に至る。それと......一定時間が経つと、各々体からどこかの機能や臓器、器官が抜かれるか、極端に低下しまう仕組みになっているらしいのだよ』
「じゃあ、俺の場合は......?」
「幻聴が聞こえるのだろう?なら多分、脳の側頭葉あたりの機能が低下しているのだと思うのだよ」
「そうだったんですか!?よかったあ......薬物乱用者や統合失調症の方などに現れる症状だと伺っていたので、もしかしたら......と内心少し不安になっちゃってました......なるほど、この世界のシステム的なやつのせいでしたか」
「うん......?ああ、まあ、納得してくれたならよかったのだよ」
いや統合失調症は疑わしいかもだけれど、薬物乱用は本人が使わない限りならなくないかい?と内心つっこみつつ、的李は相槌を打った。
「私の場合は聴覚がごっそりってわけね。厄介ったらありゃしないわ」
「だな......他人の体の器官や機能を抜く、か......となると、それをすることが可能な魔法や法術を使役できる奴がこの異空間の主で俺達をここに閉じ込めた張本人、ということになりませんか?」
『それもそうなのだよ。ただ、"他人の体の器官や機能を抜く"ことができる魔法や法術は存在しないから、それが可能な固有能力を有する奴、ということになるのだよ』
「となると......私、前に本教会の資料室でそういった能力を持つ人間の記述を見たことがあるんだけど......確か......さたな......さたにずむ?教の女性が、そういう能力を所持していたわ」
「ふむ......ん?その人間は確か、大昔にウィズオート皇国政府から国外追放と入国永久禁止の罰を下された......なんていったか、がる、がるだ......」
『ガルダ=オーヴィラリ、サタニズム教......通称"悪魔教"の大司教なのだよ』
「ああ......あの人ですか」
「確定ね」
......ガルダ=オーヴィラリ。人間界ではかなり忌み嫌われている悪魔を崇拝する、通称"悪魔教"サタニズム教の大司祭であり、ウィズオート皇国政府から国内で見つけたら即火炙りの刑に処すよう張り紙がされるほどの大罪人である。
その姿はとても奇抜で、頭の右半分の髪は赤、もう半分が黒く、瞳もそれと同じような配色になっている。それをツインドリルにし、更にその下で編み込むという奇抜極まりない身なりの女性、というのがガルダ=オーヴィラリの大まかな見た目である。
ずっと昔に頻繁に会う仲だった或斗は、今も尚鮮明に思い出す事のできる彼女を閉じた瞼の裏でそっと思い返した。見た目ぐらいしか覚えている事がないが、何かを一緒に行う中だった気がする。
思い出そうとしても頭痛がするだけだったので、或斗は目を開けて的李の方に視線を遣った。
『聴覚も幻覚も、戦闘に支障が出るレベルの機能欠落だから、本来ならば安静が最適なのだろうけれど......』
「この世界じゃ動かないと死んじゃうものね」
「そういえばそうですね......どうしましょう......」
『会話に関してはテレパシーで行えば問題はないのだよ。ただ、モニュメントに出くわした時が......』
「その時は、誰かがポータルスピアを使って遠くに逃げればいいのではないでしょうか?」
「私もそれで問題ないと思うわ。ただ、脱出方法を探すのもだけれど先決は梓ちゃんの捜索だから、それに役立つ法術......あなた達は魔法、それがあるならそちらの使用を優先してちょうだい」
『分かったのだよ』
「分かりました」
早くこの場から脱出するための計画を、丁寧に、でもできるだけ早く練り上げる。
聖火崎の意見に、的李と或斗は首を縦に降って賛成の意を示した。......タイムリミットは残り2時間強、その間に梓を探し、この空間の主を倒し、他に人がいないかどうかを確認して脱出しなければならない。
的李と或斗と聖火崎という敵対関係な間柄である3人だが、"大事な友人の命がかかっている"という事実に、今は同じ"仲間"という認識で動こうと各々密かに心に決めた。
「ところで......ねえ的李、あなたは何か体に異変とかないわけ?」
そこではて......と、聖火崎はずっと気にかかっていた事を訊ねかけた。
「そういえばそうですね。さっき聖火崎の神気にやられた位で、特に目立った不調はないように見えます」
或斗も聖火崎の問いかけに乗じて、不思議そうな視線を的李の方に向けた。
......聖火崎は聴覚、或斗は側頭葉の機能の大部分と、この異空間の法則的なものにより何かしらの機能や器官を抜かれてしまった。しかし、的李には今のところ目立った器官·機能の欠落はない。
人によっては抜かれない、とも考えられるのだが......そう3人が考え始めた時だった。
「ううむ......」
或斗の視界の隅で聖火崎が頭を抱えたのと同時に、的李がぐらりとふらついたのだ。
『......っ!!』
「的李!?」
ゴフッ......パタ、パタポタポタ............
「......、......?」
「的李さん!?」
「的李!?」
そして、口から赤黒い血の塊を激しい咳と共に思い切り吐き出した。苦しそうに、不快そうに歪む眉が、"的李の体にも異変が起きた"という事実を地面に落ちた血と共にはっきりと表していた。
「......、......。............?」
「的李さん、もしかして......」
的李が必死に喉に力を込めて口を動かすも、出てきたのは血の混じった湿り気のある息だけだった。
「......声帯、持ってかれたわね」
「だ、大丈夫ですか......?」
『......ああ、なんとか......戦闘に支障がない部位でよかったのだよ』
苦しそうな表情を浮かべたのは一瞬だけで、的李はすぐにすっと立ちあがった。
その様子を見て、聖火崎と或斗もすっくと立ち上がり、教会から出ていく的李の背を追って足を動かす。
「っと、それじゃー梓ちゃんと主を探すわよ!!」
「そうだな」
ぐっと拳を突き上げながら調子よく声を上げた聖火崎に或斗は苦笑を零しつつ、教会のある小さな田舎町からすたすたと歩き去っていったのだった。
──────────────To Be Continued──────────────
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