22話6Part 異世界生物達の日常⑥
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「......ゴキブリ......!」
そう、こいつが葵雲の"生理的に無理なもの"なのの、正体なのである。
カサカサカサ
「っ!!やだっ、やだやだやだやだ!!こっち来ないで、来ないでーっ!!」
ドッタン、バタッ、バタバタバタ
カサカサカサ
「わあああああ!?」
ガタ、ドサッ、ガタガタ
何を思ったのか葵雲に一目散に近づいていくゴキブリから、葵雲は死に物狂いで逃げ回る。
ダンボールが落ちるのも机がずれるのも気にせず、ただパソコンだけは死守しつつドタバタ、ドタバタと走って跳んでひたすら逃げる。
ゴンッ
「わぶっ!!」
ドタッ!!
刹那、廊下と部屋の間に立っている柱に額を思い切り強打し、背中から床に落ちたが、すぐに立ち上がり、後ろから迫ってくる約3cmの天敵から葵雲は必死で逃げ続ける。
カサカサカサ
「ったい〜......あ、そうだ!!」
そして何かを思いついたかのように手を打ち、
「ここならどうだ!!」
ダイニングテーブルの上によじ登り、下を這い回るゴキブリの事を見下ろした。下をカサカサと動き回っていたゴキブリは、葵雲がダイニングテーブルの上にいる事が分かっているのかいないのか、動きを止めて静かに何かを考えている。
「え、うそっ!!」
そして、
バサバサバサバサッ
「うわあああああああ!?」
漆黒の翼を広げて、葵雲の顔面めがけて飛んでくるではないか。突然の出来事に焦った葵雲は、足をもつれさせてダイニングテーブルから転げ落ちた。が、
「っぐ、くそ重い......」
間一髪、地面に落ちる既のところで、下で構えていた望桜に受け止められた。
「うう〜......」
頭を打ったダメージが今頃やってきたのか、はたまた受け止められたとはいえそれなりの衝撃があったのか、額を押さえて呻き声を上げる葵雲。
「幼い子供かお前......」
「だって、ゴキブリ怖い......」
「お前仮にも大悪魔だよな!?めちゃくちゃデカい八咫烏やらドラゴン相手でも怯まねえのに、あんな小さな虫が怖いのかよ......」
その様子は、大悪魔の貫禄や威厳などとても感じられるものではない。葵雲がゴキブリから小さい子が初めて見る家ネズミを怖がって逃げ回る様にかなり酷似している。
......くっそだせえ、こいつ......と、自身の腕の中で未だに呻きながら額をさする葵雲の様子に、呆れる事......と、そう考える心の片隅で可愛い......と萌えを感じるしか望桜には出来なかった。
そしてその呆れ顔そのままに、先程ゴキブリが飛んでいった方向、今は音沙汰ない静かなその方向に視線を移すと、
「ところで、あの飛んでたゴキは......て、うわ」
と、一言何かを言おうとして、小さく声を上げた。
「ど、どしたのまo......わ、わあ......」
葵雲もその動きを不思議に思って同じ方向に視線を移し、望桜同様、眉をひそめながら素っ頓狂な声を上げた。
ポト、ポトポト......
その視線の先、部屋の白い壁に何やら黒い丸とそれに刺さった銀色の棒のようなものが見える。どちらもてらてらと輝いている。そして銀色の棒に刺された黒い丸からなにかが落ちるのが見えたが、2人とも何故か催し始めた吐き気を押さえるためにも気の所為か、目の錯覚だと思うことにした。
「......全く、人の静寂な午後を邪魔するとは......」
そこには、壁とゴキブリに自身の愛刀を突き立てて、分かりやすく怒っている雰囲気だけを醸し出しつつ静かに俯く的李の姿があった。
「ま、的李?そ、それ......」
「ん?ああ。既に事切れているのだよ。だから安心し給え」
「よ、容赦ねえ......」
もはや壁に傷がとか、そっち方面に気は回らなかった。ただただ静寂を身に纏う的李の苛苛を、逆撫でしないように聞きたい事を消化するのに精一杯すぎて。
そんな妙な緊迫を味わっている2人を他所に刀を引き抜き、腰から下げている鞘に収めた的李。赤い跡の目立つ首筋を痒そうにひと撫でして息を着いたあと、「それじゃ、バイトに行ってくるのだよ」と一言残し、
「......は?え、ちょ」
その仕草を見ていてそわそわと気焦り始めた望桜を壮麗に無視して、部屋から出ていった。
「......うわあ酷い有様。何かあった?」
そして、的李と入れ違いで入ってきた鐘音が若干慌て気味に332号室を覗き込み、そう言った。
「あ、あのね、僕331で見ることなかったから油断してたんだけど、332でYouTube見てたら、ご、ごき......Gが出たんだ!だから逃げてたの!!」
「......ぶふっ......」
「笑うなぁー!!」
名前を呼ばずに、一般的な呼称でゴキブリを言い表した葵雲。肩で大きく息をしながら話すその様子が鐘音の目にはかなり滑稽に映ったらしく、顔を手で押さえて控えめに笑ってみせた。
「大悪魔でそれって......wwまあ、332に出ても331には出ることはないから関係ないけどね」
「「......へ?」」
その後に一呼吸置いてから告げられた言葉に、望桜と葵雲は目を見開いた。
「生まれながらに蝿蟲族の族長だったからかなんなのか知らないけど、小さい頃から虫が操れるんだ。それで、来た日に家中の虫全部外に出して、そこから中に入ってこないように防虫結界を張ってたんだよ。お前ら、僕が来てからゴキブリとかクモとかはもちろん、ハエやカも家の中で見てないだろ?」
「はあ......」
「確かに......って、蝿蟲族?あのでっけーハエの種族か」
鐘音からのあまりにもあっさりとした能力開示と"防虫結界"とかいうものがあるという事実に、あっけらかんとしてしまう葵雲。その横で、望桜は鐘音の生まれ種族、蝿蟲族に属する悪魔達の風貌や雰囲気を思い返している。
......蝿蟲族。鐘音......ことベルゼブブが族長を務める、数多くある悪魔の一族の中でも比較的大規模な方の種族だ。また、数が多いだけでなく、かなり前からエールデに現存している種族でもある。
見た目は体が大きいだけでかなり人に近い......と思われがちだが、真の姿はもう見たまんま、大きなハエである。硬い毛の生えた足に、沢山の小さな眼が集まった顔。背に生えた半透明の巨大な羽と、日本で普通に見かける2tトラックより数回りほど大きな体。
それほど大きなハエは、一目見ただけでもう背中を悪寒が5往復は余裕で走ってしまうほどの恐怖と嫌悪感を望桜に与えた。
そしてその蝿蟲族の頭領であるベルゼブブは、他の蝿蟲族の悪魔からは想像できない姿をしていた。普通の悪魔よりももっともっと大きな全長30m程の、頭に炎の輪をいくつか携えた大きな角が生えている真っ黒な豹。これがベルゼブブの真の姿である。
望桜は1度だけしかベルゼブブのその姿を見た事がないが、それでも、今でも鮮明に思い出すことができるほどその姿はしっかりと望桜の脳裏に刻まれていた。
ただ、望桜とベルゼブブが魔界北方で戦った時だけしかベルゼブブはその姿になっておらず、普段は角と羽、そして手先と足先の黒い毛だけが残っている人型悪魔の姿で過ごしていた。他の蝿蟲族も同じだった。
「そ、大きいハエってすごいインパクトあるでしょ。あってなかなか忘れられない種族トップだとは思ってる」
「確かに......」
鐘音の自賛とも取れる言い草に、望桜もこくこくと上下に頷いた。
「......あれ?もう11時?でも的李、バイト行ったよね?」
その望桜の横でいつの間にかパソコンとヘッドホンをセットしてYouTubeを見始めていた葵雲が、パソコンの左下に表示されている時間を見て間の抜けた声を上げた。
的李の"バイトに行ってくる"という捨て台詞が、本当は332号室の誰にも咎められずに退室するために最適な口実であったというだけで告げられた台詞だとは知らずに、葵雲はパソコンに視線を移した。
その声に反応した望桜が時計を見やると、
「あ、本当だ。明日も早いし、もう寝るか〜。おやすみ葵雲」
時計の針は11時27分とかなり中途半端な時間を指し示していた。......明日は確か、開店前の下準備からだから7時前くらいには行かないとな。と、時計を見た時ふと明日の朝の出勤時間が早い事を思い出し、一言言い残して部屋に戻っていった。
「僕も明日高校あるから寝る」
「そっか。僕はもう少し起きとく!おやすみ〜!!」
それに続いて出ていった鐘音の背を見送った後、葵雲は炬燵に足を入れて再び視線をパソコンに戻した。
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「儂の邪魔者は今すぐ殺せ!!向こうの人間の命がいくつ消えゆこうとも、我々には関係ない!!」
......ウィズオート皇国皇都·ラグナロク。中央に聳え立つヴェルオルガ城の内部の大広間、その奥にある壇上の王座に腰掛けた白髪でシワシワの爺は声を荒らげてそう言った。
大きな大きなシャンデリアにステンドガラスで造られた綺麗な装飾で360度飾られた煌びやかな空間に、爺......ことウィズオート皇国皇帝·ウィズ=ウェルイフの怒号がこだましている。
「まあ落ち着いてくれ、皇帝殿」
その皇帝を落ち着かせるように静かに声をかけたのは、勇者軍元帥·ヘルメスだ。アシメの蒼髪に同色の瞳は、身に纏う鎧と腰に下げられた剣と共に静かに貫禄を物語っている。
皇帝の嘆きを受けて何かが書かれた書類に一通り目を通すと、自身の斜め前にいる人物に視線を移し、
「ここで喚いていても意味は無い。......東方大臣殿、向こうに手勢は送ってあるのか?」
「ああ、はい。もう既に2名ほど送ってあります。1名が、居場所は分かってはいるもののこちらからの呼びかけが通じなくなっています。あとの1人は......」
と、先程までと同じ調子で問いかけた。その問いかけに、見るからに宮仕えといった様相の男は慌てつつも答える。
「......1つ目の計画が失敗し今はターゲットの近親者として過ごしているそうです。失敗は失敗ですが、今現在はスパイとして情報を集め、状況を見て2次の計画を実行するそうです」
「なるほど......あの2人でも難しかったか。となると、残りの兵を1人ずつ送ったところで、成功はあまり期待できなさそうだ」
男の返答にヘルメスは俯き、「うむ......」と小さく唸った後に自身の手元にあるいくつかの書類のうちの1枚を取り出してそう言った。
その書類には赤髪の少年と褐色肌で銀髪の少女を筆頭に、数名の顔写真と軽いプロフィール紹介が書かれていた。
「......残りの3名、一気に送り込もう。総帥殿は大道芸公演会で現在部下の1人を連れて国中を回っている最中だしな、戻ってきた時に朗報と共に彼奴の首でもくれてやるとしよう」
東方大臣とその周りにいる黙ったままの各地方大臣、ヘルメス、そして皇帝は、大広間の入口に視線を向けた。
「......なあ?ガルダ」
その視線の先、半分赤髪、半分黒髪の少女はヘルメスからかけられた声に反応し、身に着けた遍く宝石細工が大量にあしらわれたドレスを揺らしながら不敵に笑ってみせた。
周りに浮く鉄臭い赤黒い液体が、おどろおどろしく輝く。
「うっふふふふふ......!ええ、是非、是非私共に一任して頂戴な」
どこか気味の悪さすら感じさせるような薄ら寒い笑みに、大臣の1人が身震いした。
「私も頑張りますわ」
褐色に銀髪、薄藤色の瞳の少女は、古代ローマを彷彿とさせる服装のまま後ろの大理石でできた柱にもたれかかり、やれやれ......と怠そうに、しかし満更でもなさそうに一息ついた。
「......ロキ?そなたは儂の言うことを聞いてはくれんのか?」
「っ!!」
その2人の後ろに控えていた薄金髪の少年は、皇帝からの明らかに裏がある訪ね方にびくりと身を震わせて大きく反応する。......まあ、あの訪ね方をされれば誰でも身震いするだろう。
何せ......
「なあ?ロキ......計画に、参加できんのか......?」
「......ひ、......!」
上っ面だけの笑顔を顔に貼り付けて怪しく訊ねかける皇帝の手には、銀製のナイフが握られているから。
「......、は、い......分かり、まし、た......」
詰まり詰まり、少年は震える声で俯きながら答えた。躊躇の情が大広間に居る全員に見て取れた。......しかし、それと同時により鮮明に、手に取るように分かるもう1つの感情に場の全員が満足気に頷いた。
(......大丈夫、大丈夫......これは、正しいことなんだ。正しい、こと......)
心の中で繰り返し、繰り返し、繰り返し唱えているうちに、少年の瞳は光をなくしていく。少年の下には、薄く光る洗脳術式の魔法陣が。
「......ロキ、行けるよな?」
「......はい」
再び皇帝が声をかけた時には、少年は一切の躊躇をせずにこくりと頷いた。その目には一抹すら光はない。
......洗脳。皇帝達の味方、褐色銀髪の少女の大得意な魔法。
これが、作戦を円滑に進めるための潤滑油になる。
「......ふは、ふふ......ふははははは!あっははははははははは!!」
大広間から去っていった少年の背中が扉に遮られて見えなくなった頃、皇帝は嘲笑混じりの高笑いを上げた。
「......これで、これでようやく......儂らは"天上人"になる切符を手に入れるのだ......ああ、神よ、天よ、我々に永年の浄土を。人間社会に蔓延る悪魔共に死を。......ふは、ふはは、ははははははははははは!!」
王座裏の神像に、縋り付くように喚いて。皇帝は目の前の聖十字架を仰いで十字を切った。
─────────────To Be Continued──────────────
ご精読ありがとうございました!!