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02 いつかあいつを料理してやるからなぁ?

 あえて邪神の思惑に乗りぶち殺す決意を固めた俺だが、早速エルフの村を追放された。

 死んで復活するのは魔王や魔物の特徴だから、邪神の力で復活を繰り返した俺は神の託宣を受けたにも関わらず闇堕ちした邪悪な奴だと思われたらしい。追放されるのは勇者パーティに入ってからにして欲しかったが、仕方ない。怯えるエルフに罪は無い。悪いのは全部邪神だ。


 エルフの村は世界樹の根本から枝にかけて広がっていて、世界樹は大森林に完全包囲されている。空には時々ドラゴンやよくわからん燃える鳥が飛んでいて、森にはクソデカい亀や角の生えた兎がいる。もちろん肉食動物もいて、俺は追放された十分後に赤い毛皮のクマに腹をぶち抜かれて死んだ。


【101周目だ】


 頭の中に声が響き、世界樹の根本で復活。うるせーよ。


 このままでは料理人になるどころか生き延びるだけで難しい。俺は先人を見習う事にした。村から出て狩りをするエルフを尾行したのだ。

 尾行されたエルフは気味が悪そうに何度も俺を振り返ったが、追い払おうとまではしなかった。追放した罪悪感があるのだろうか。事情を詳しく知らないエルフから見れば、俺は闇堕ちしたとはいえ神の託宣を受けた幼子だもんなぁ。いくら気色悪くても殺すところまではいかないか。その道徳心に付け込ませてもらおう。サバイバル技術は見て盗む。


 まず、すぐに気付いたのはエルフが木の上を歩いて移動する事だ。

 高いところにある枝の上を歩き、飛び移り、ぶら下がる。俺も真似をしたら簡単にできた。エルフの体はバランス感覚抜群だ。

 木の上を移動する理由はすぐに分かった。何しろ、地面を巨大なイノシシや雷を纏ったオオカミが闊歩している。肉食獣は巨体が多い。木に登れなかったり、登れても自重で枝を折ってしまい落ちるのだ。

 木に登れる狂暴な面構えの猿もいたが、地上を歩くよりは圧倒的に接敵回数を減らせる。この森で生きるためには、樹上生活は必須といっていいだろう。

 なお、俺は狂暴な面構えの猿に首をモギモギされて死んだ。


【102周目だ】


 また世界樹の根本で復活。

 夜になり冷え込んできたので屋根に入りたい。が、追放者ゆえ村の外に追い出される。せめて火が欲しく、俺を村から追い出すために背中をグイグイ押すエルフの少女が持つ松明をなんとか譲ってもらおうと話しかけたが、悲鳴を上げて逃げられた。

 そんな怖がらなくてもいいじゃんかよう……クソッ、あれもこれも全部邪神が悪い。割とマジで。

 家の陰に隠れ、遠巻きに威嚇してくる少女に優しく話しかける。


「君にいじわるするつもりはないんだ。追放も甘んじて受け入れよう。ただ、火をくれないか。寒いんだ」


 エルフは生まれつき薄い緑色の服を着ている。原理は分からないが、そういうものらしい。だから裸ではないのだが、薄すぎて寒い。なんなら追加の服も欲しい。

 少女は警戒したまま聞いてきた。


「火をどうするの?」

「どうって、暖をとって、明かりを確保して、あとは料理とか」

「……確かに大神様が言ってた。スームは料理人になる子だって。料理人になってどうするの?」

大神(じゃしん)をぶっ殺す」


 少女の顔が青ざめた。


「出てって! 化け物! 恐ろしい! スームの顔なんて見たくない!」


 少女に小枝を投げつけられ、俺は火も無いままトボトボ村を出た。

 エルフの大神崇拝はけっこうなものらしい。おだてて大神を褒めれば追放解除もワンチャンあったかも知れないが、そこは嘘をつけない。

 大神は、邪神は、敵だ。それは譲れない。


 俺は村から少し離れた木の上で寒さに震えながら眠り、案の定凍死した。


【103周目だ】


 幸い、復活した時には空が白み、朝になっていた。二度凍死する事はなさそうだ。

 村を出る時に昨夜の少女を見つけ謝ろうとしたが、眼を逸らして逃げられた。つらい。

 村を遠巻きに観察していると、狩りに出る前にエルフの男達が白くゴツゴツした木の枝を焙り、煙を浴びているのを発見した。何かの儀式だろうか、と思って観察を続けていると、上空を飛ぶ鳥の群れが立ち上る煙を避けて迂回していっている事に気付いた。

 普通にケムいのが嫌だから避けたのかも知れないが、これはもしかして獣避けの煙なのではないだろうか。


 森の中を探すと、狩人が使っていたのと同じ白くゴツゴツした木があった。枝を一本折り、木をこすり合わせ三時間試行錯誤して着火した火で炙ってみる。すると、煙が広がるにつれ、獣たちは嫌そうな唸り声を上げて遠ざかって行った。試しに別の木を焙って煙を出すが、その煙を浴びても獣は逃げない。

 間違いない。白いゴツゴツした木の煙は獣避けに使える。


 煙で自分の安全を確保しつつ、煙の臭いが届かないところにいる獲物を弓で狩る。たぶん、そういうスタイルで狩りをしているのだろう。

 しかし俺は弓を持っていない。狩りはまだできない。


 仕方が無いので、俺は銀色のリスが食べているのを見かけた、食べられそうな赤い果実を食べた。食えたものではないほど酸っぱかったので試しに火で軽く焙ってみると、甘味が増し、食べやすくなった。調理は偉大だ。邪神オススメ職業でなければ料理人として生きるのも悪くない。

 腹が減っていたので夢中で食べていると、腹がゴロゴロ鳴りはじめ、俺は腹を突き破って発芽した草に殺された。草生える。


 前途多難だ。料理人になる前に、食べられる食材を見極められるようにならなければ。


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