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目覚めたのは森の中だった。
立ち上がって見渡してみるけれど、辺りは鬱蒼として暗く、それでいて奇妙な雰囲気に包まれていた。
僕は、今まで何をしてたんだっけ?どうしてこんなところに?
目覚めたばかりの頭を必死に巡らすがどうしても思い出せない。
「……んぅ?」
近くの茂みから小さな女の子の声がした。
「あ、れ……おにいちゃん、どこぉ?」
声が震え始める。
「おーい、どうした?」
泣きそうなんだと気づいて、とっさに声を掛ける。え、と驚いたような声が返ってきた。
すぐにガサガサと茂みをかき分けて、幼い女の子が僕の前に姿を現す。
少し充血した目をまん丸にして、じっと僕の顔を見ている。7、8歳くらいだろうか。僕よりも……あれ?
僕は、いったい何歳だっただろう?
頭を抱える。名前は、覚えている。他のことは……ほとんど覚えていない。
ただ誰かの手を引いて、爆音と火花の散るどこかを必死に走っていたこと。今思い出せるのはそれだけだ。
「……おにいちゃん!」
ぱぁっと表情が明るくなった女の子は僕に駆け寄り、お腹にタックルでもするようにぶつかるとぎゅっと抱きついてきた。
「ぐっ……おにい、ちゃん?」
この子には悪いが、僕には妹がいた記憶は無い。暗いし、きっと見間違えているんだろう。そのおにいちゃんとやらは、僕と声や背格好が似てるんだと思う。そうでなきゃ説明がつかない。
「すごくこわかったよぉ……おにいちゃんなんでわたしをおいてっちゃったの?」
「ん?んー、えっと……ごめんな?」
別人だと言ってしまうのは可哀想な気がして、僕は女の子の頭を撫でてとりあえず謝った。
「……うん、ゆるしてあげる。もう一人にしないでね?」
女の子は顔を上げた。若干まだ涙目だ。
「うん、わかった。わかったよ」
「ほんとに?じゃあゆびきりして」
抱きついたまま小さな右手の小指を僕の目の前に差し出す。苦笑しつつ僕も小指を出して絡めた。
「えへへ」
にこっと女の子は笑った。口内で1つだけ歯が抜けている場所があるけれど、それも愛嬌があってかわいいと思う。
……いや、変な意味では決してなく。僕に幼女趣味はない、はず。
「……そういえば、君名前は?」
「えっ……わたしのなまえわすれちゃったの?ひどいよおにいちゃん!」
指切りした指を力任せに離して拳を握り、女の子は僕の腹に衝撃を加えてきた。つまり、僕は今殴られてる。
「ま、待って!痛い、痛……?」
おかしい。力が弱いせいだろうか。あまり、というよりも全く痛みを感じない。
女の子は未だに殴ってきてる。というかいつの間にか両手で殴ってる。
衝撃は確かに感じるけれど、なんだろう。すごく違和感がある。まるで分厚い膜を被った上から殴られているみたいだ。
「もうっ!めぐみだよ!ぜったいぜったい、二どとわすれちゃだめだからね!」
「ごめんごめん、さっき起きたばっかりだったからボーッとしてた。ごめんよめぐみ」
「もう!おにいちゃんたら!もう!」
殴るのをやめて、腕を組み頬を膨らませて怒るめぐみにとりあえずは謝ったけれど、正直それどころじゃない。
そういえばこんなに暗い、今が何時かもわからないような森の中なのに、僕の目にははっきりとめぐみの顔が見える。さっきだって口の中までしっかりと見えていた。
おかしいな、おかしいな。
不安がだんだんと、土砂のように重々しく積もっていく。
怖い。
少ししかない記憶に、目覚める前とは大きく異なる自身の感覚。
「じゃあ、めぐみ。おにいちゃんの名前は覚えてる?」
震えないように、でもどうしても震えてしまった声で僕は尋ねた。
「おにいちゃんのなまえ?あたりまえだよ!……あれ?えっと……」
めぐみは目を泳がせて、指を組んで忙しなくこすりはじめた。
「めぐみだって覚えてないだろ?」
「お、おぼえてるよ!えっと……ほら、ああ……うーん」
また泣きそうな顔になる。多分めぐみは元々泣き虫な子なんだろうけど、このまま泣かせるのは良心がとがめた。
「公太、だよ。」
「そう!こうた!おにいちゃんのなまえはこうた!ほら、おぼえてたでしょ?」
表情をころっと変えて得意げに言うめぐみ。解せない……と思ったけれど、まだ小さいんだからしょうがないか。
まぁ、めぐみのおかげで、少しだけ気分が落ち着いた。
「そうだな、覚えてたな」
「ふふん」
胸を張って得意げな表情を崩さずにめぐみが答えた。とりあえずまた頭を撫でておく。単純というかなんというか。
「そういえばめぐみ、ここがどこか知らないよな?」
「うん、しらない」
「だよなぁ。僕も知らない」
「おにいちゃんがしらないならわたしがしるわけないじゃん!」
「まぁそうだけど……一応な、一応。」
確かに、知ってたら最初あんなに泣きそうな声出すわけないか。
「とりあえず大人に会いたいな、子どもだけだと危ないし。いい大人に会えればいいけど」
「大人?」
「うん。お金も無いし、食べる物もないから。」
「おにいちゃんおなかへってるの?」
「いや、まだだけど」
「わたしも!だからのんびりさがそう?」
めぐみが手を握ってきた。なるべく痛くないように力を入れずに握り返したけれど。感覚があやふやで正直握り返すのも怖い。
僕の体は、一体どうなっちゃったんだろうか。




