狭いもの
まず、蛙に生まれたことが私の人生で最初の失敗だと思う。
他の蛙と私との決定的な違いはその考えにあるだろう。なぜか私は高度な知能を与えられているようで、他の蛙などとまるで相手にならないが、蛙は蛙、だということを再認識させられている。
─鼠が数匹、襲いかかってきたのだ─
蛙の皆、我先に田んぼのぬかるみに逃げ込む。それは鼠からすれば私と他の蛙に何の違いも見受けられなかっただろう。ああ、何匹か食って鼠は満足して去る。まだ尾が取れたてのころの最初の蹂躙された記憶は、未だに私の小さすぎる脳に鮮明に刻まれ溝に収納され、鼠に合うたびに一瞬で全て溢れる。
鼠になりたい。私は、私ほどの知能ならば鼠の体でのほうが発揮できるだろう。バッタ程度とるのにさえひそひそと隠れて隙を突くような小心者の馬鹿な蛙どもを蹴散らしたい。自由に足で地を駆け巡りたい。跳ねなければ移動できないこともいちいち体を湿らせに田んぼに戻ることもうんざりだった。
来世では、鼠として生を受けたい。それだけを考えながらつがいすら作らず独り身で、バッタを採ったり田んぼに入ったり鼠から逃げるだけの生涯を終えた。
気が付くと、どうやら体の様子がおかしい。跳ねなくても歩ける。肌もかわいているのに平気だ。前足をみるとあの恐ろしくも憧れだった鼠のそれだった。祈りは届いたのだ、蛙だった頃の記憶も共に私は鼠として活動しはじめた。
毎日が幸せだった。あの蛙が小さい、小さすぎる。あんな矮小で低次元な存在に私の魂は押し込められていたのか。今、私は解き放たれたのだ。地を駆けずり蛙を散らして暴れ回るだけで快感だった。他の鼠どもを圧倒して、田んぼの覇者、屋根裏の君、の2冠王と呼ばれるようになってしばらく安寧な日々を過ごしていた。ある日─私は再認識させられている。鼠は鼠だということを。
何か腹に入れようと屋根裏からリビングの床に降りたったとき、ふと良いにおいが感じられたので、においのする方向へ走ればどうやらあの箱の中にあるようで、ためらわず侵入すると身動きがとれなくなったのだ。しばらく経って箱ごと持ち上げられた感じがしたと思えば箱からつまみ出された……『つのちゃんご飯よ~♪』私は水槽に放り投げられ、見上げた目線の先には自分より倍以上大きい、ベルツノ蛙が悠然と座していた。来世ではベルツノ蛙として生を受けたい。
稚拙な文章を最後まで読んで頂きありがとうございます