図書室、そこにある背中は
五時間目の開始を告げるチャイムが鳴り、英語の授業が開始される。
だけども昼食を取り終えて間もない上、暖房が効いた教室。さらに冬の陽射しをもろに浴びるこの時間帯は、私だけに限らずクラスメートのほとんど全員を睡魔が襲う。
その上先生の念仏のような朗読を聞いているといよいよもって起きる気力を失った生徒が一人、また一人と机に顔を突っ伏し夢の世界へ誘われていく。
私はあくびを手のひらで隠し、睡魔を振り払うように頬をつねる。さらに抵抗しようと、握っていたシャープペンシルを机に置いて両手の指を絡ませ、あまり目立ち過ぎないよう小さく伸びをする。
そしてどうにかこうにか、まるで魔香が漂っていたのではないかと思える時間を耐え抜き、授業の終了を迎えた。
今日はこの後に授業はない。私は机の中から教科書を取り出して鞄に入れたが、間に一冊の本が挟まっているのを目にし、図書室から借りたものだと認識する。
ああ、こないだ読み終えたのに返却を後回しにしてしまっていたことをすっかり忘れていた。
ホームルームが終わると、私のもとに里奈が真っ先に駆け寄ってきた。
「詩織、今日予定あるの? ないでしょ? 帰りにさー、ケーキ食べに行こうよ! ほら、新しくできたお店知ってるでしょ?」
「あっ、あっ! 私も行きたい行きたい!」
「もちろん明日香は頭数に入ってるよー。私がケーキって言葉を発したら誘わなくても来るでしょ?」
「流石だねっ! 詩織も来るでしょ?」
二人の和やかな会話に思わず頬が綻ぶ。私は頷いてから手にしている本を指差した。
「少しだけ待っててくれる? 図書室にこの本返してくるから」
了承した二人を教室に残し、同じ四階にある図書室に向かう。
渡り廊下を抜けた先の北校舎は、専門的な授業を行う教室が多く、授業や部活動以外で足を運ぶ生徒は少ない。本を読むのが好きな私はよく図書室を利用するが、やはり利用者はそれほど多くないように思う。前を歩く女子生徒はたぶん吹奏楽部だから、一階上の音楽室に向かうはず……やっぱり。
西陽に晒され黄ばんでしまっている図書室の扉を引くと、数人の生徒が机に向かい読書をしたり、ノートや参考書を開いてかじりつくように勉強をしている姿が目に入る。
視線を入口から見て奥の方にある窓側の席に向けると、カウンター席になっているその場所に一人の男子生徒が座っていた。
もしかして――?
私はその男子生徒の斜め後ろまで近づいて行った。