溶け合う心
「成瀬」
今度は逆に成瀬の右手を掴み、俺の胸にその小さな手を添えさせた。
遠慮がちに触れる成瀬の手を俺はしっかりと押し付ける。
「わかるか?」
目を閉じる成瀬。ややあって目を開けると成瀬は微笑んだ。
「うん……感じるよ。山中くんの心」
「ああ」
俺はアーロンチェアから立ち上がる。成瀬もそれに合わせて立ち上がった。俺の胸の辺りまでしかない小柄な成瀬。その細い肩を俺は両手で掴んだ。
ビクリと、成瀬の肩が条件反射的に縮こまる。
「成瀬、もっと。もっと感じさせてくれ」
「え?」
成瀬は目を丸くして俺を見上げた。その表情に、またトクン……と胸が高鳴った。
「成瀬をもっと感じたいんだ」
俺は成瀬に被さるように抱きしめた。弱々しいその体が壊れてしまわぬように優しく、抱きしめた。
俺の胸の中で、成瀬が小刻みに震えているのが伝わる。俺は一度抱擁を解き。
「怖いのか?」
と訊いた。
「……違うの。私、男の人と触れ合うのなんて初めてだし、凄く緊張しちゃって」
「本当にそれだけか?」
「え?」
成瀬の額から僅かに汗が滲んでいる。
「先日の恐怖が、まだ成瀬の中に棲み着いているんじゃないか?」
動揺の表情を浮かべ、成瀬は素早く下を向く。それはまるで図星を突かれた事を悟られまいとするかのように。
「そんなこと、ない」
成瀬ははっきりとした口調で否定する。肩からは小刻みな震えが未だ俺に伝わっている。
「でも、震えている」
「山中くんだから、大丈夫」
成瀬から俺の胸に顔をうずめた。俺は震えるその小さな体を再び優しく抱く。
「ねえ」
成瀬の両手が俺の腰に巻き付いた。
「もっと、もっと強く抱きしめて」
「いいのか?」
「うん」
俺は少し前屈みになり、成瀬の胸と俺の胸が密着するようにきつく抱きしめた。
顔の横で成瀬の苦しそうな吐息が漏れるのを聞き、腕に込めた力を弱めた。
「離さないで」
成瀬が脱力を素早く拒否する。
「もっと、きつく抱きしめて」
「ああ」
再び両腕に力を込めると、やはり成瀬は苦しげな吐息を漏らす。だが、今度は力を緩めなかった。強く、強く成瀬を抱きしめ続けた。
「ねえ、山中くん」
「なんだ?」
喘ぐような成瀬の声。
「心臓の音が、聞こえるね」
成瀬の心臓と俺の心臓が重なり合い、まるで一つになっているようだ。
「ああ、そうだな」
「まるで、私と山中くんの心が、溶けて交わってるみたいだね」
成瀬の表現はどこか詩的で美しかった。
「ああ、そうだな」
「もう暫く、このままでいさせて」
俺の肩に成瀬の顔が伏せられる。
成瀬の震えはもう止まっていた。
その後、しびれを切らしたミュウが足元にじゃれついて来るまで、俺と成瀬は抱きしめ合い続けた。




