捨て猫と選択
降り出した雪は強さを増し、真っ暗な世界にその白さを強調していく。
学校を過ぎ、自宅への帰路を行く俺は学校に向かったときとは違う道を歩いていた。理由は単純に一番近い道筋だから。
真夜中ということを差し引いても人通りの少ないその道で、不意にか細く高い小さな鳴き声が聞こえた。声が聞こえた方を見ると、そこには『美味しいみかん』と印字されたダンボール箱が蓋が開いた状態で置かれている。
中を覗くと、雪にも劣らぬ真っ白な毛色をした小さな猫が、何かを探すようにもぞもぞと動いて、しきりにみゃあみゃあと鳴いていた。開いた蓋には一枚の紙が貼られていて、一言『飼ってあげてください』と書いてあった。
何かしらの理由でこの猫は捨てられたらしいが、こんな寒い日に外に放置しておきながら、『飼ってあげてください』とは如何なものだろうか。この猫は朝を迎えることなく死ぬだろう。
そうと知りつつも俺は猫を一瞥しただけで、その消え入りそうな鳴き声から遠ざかった。
上着のポケットに冷えた手を入れると、指先に固く薄い物体が触れる。取り出し確認するとそれは五百円硬貨であり、俺はその五百円玉を見てふと思いつく。
親指の先に乗せて弾き上げると金属音を響かせ、五百円玉は回転しながら宙を舞う。そして落下してきたそれを掴み手を開くと、そこには桐が描かれた面が上を向いていた。
「表……か」
俺は立ち戻り猫の入った段ボール箱の前に立つと、蓋を閉めて箱ごと抱える。家につくまでの間、箱の中の猫はみゃあみゃあとずっと鳴き続けていた。