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『心の温もり』~約束の藤色のハンカチ~  作者: 風花 香


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なんで裸なの?

挿絵(By みてみん)






 目を開けると見慣れぬ白い天井がそこにあった。私の部屋の天井じゃない。

 頭がぼーっとして思考が重たい。ここはどこかしら……。


 足元の方から小さく紙が擦れるような音がした。それが本を捲る音だということにはすぐに気付き、視線をそちらに移す。


 そこには椅子に座って本を読む山中くんの姿があった。だけど、まだ現状を理解できない。


「山中くん?」

「気が付いたか」


 本から視線を上げ、私を見る山中くん。何で山中くんがいて、私が寝ているのかわからなかったが、とりあえず起きようと上体を起こして。


「っ!!」


 慌てて、布団を身体に引き寄せた。

 

 え!? 何で? 私、裸じゃない!?

 

 恐る恐る確認すると、驚愕すべきことに、一糸纏わぬ姿であることがわかる。頭の中は更に混乱を極めた。


 山中くんはそこにいて、私が寝てて、しかも裸で。何? 何なの? どういうこと!?


 ごうごうと耳の奥から音が聞こえる。体中の血液が沸騰してしまったのかもしれないと、そう思えるほど顔を中心に物凄く熱い。


「左京や山室を庇って自覚が薄かったようだが、成瀬の受けた恐怖やストレスは甚大なものだったのだろう」


 轟音を立てる耳鳴りのせいで聞こえにくかったが、ああ、そうだ。私はあの男の人達に襲われて。山中くんが助けてくれたんだ。


 ようやく、何があったのかを思い出してきた。だけど……だけど、何で裸なの?


「シャワーを浴びている最中に意識を失って倒れていた」


 その一言に、更なる身を切るような羞恥が襲い掛かってきた。そこで気を失ったのに、こうして裸でベッドにいるって。それってつまり……。


「異変に気付き……」

「待って!」


 咄嗟に叫ぶ。どうしてこうなったのかは理解した。だけど、それを言葉にされて聞くのは恥ずかしすぎて耐えられない。


「もう、わかったわ……だから、それ以上言わないで」

「そうか」


 (おもむろ)に席を立つ山中くん。部屋を出て行き、直ぐに戻ってきたその手にはバスローブがあった。


「服はまだ乾いていないから、とりあえずコレを山室に用意させた」

「あ、ありがとう」


 手を伸ばして受け取るのにも、布団がはだけないようにかなり気を付けた。

 山中くんはバスローブを私に手渡すと元いた椅子に腰掛け、再び本を開いた。

 ページを捲る音が室内に響く。


 こほん、と咳払いをしてみるが、山中くんは気に留める様子もなく本を読んでいる。


「あの……山中くん?」

「どうした」

「これ、着たいんだけど……」

「着ればいいじゃないか」


 顔を上げ不思議そうな山中くん。たぶん、そういう下心とかは本当になくて、当たり前のことを言っているんだと思う。

 

「ちょっと、部屋出ててくれないかな」

「見ないから安心しろ。それに、ここに成瀬を運ぶ時既に……」

「っっ!! いいから出ていって!」


 山中くんが言おうとした言葉にまた顔が熱くなる。そんな光景を想像しただけで頭の中が爆発してしまいそうだった。

 山中くんにしてみれば急に私が怒鳴ったわけだが、焦るでも驚くでもなく、淡々としたいつも通りの態度で寝室から出ていった。

 

 深呼吸して気持ちを落ち着かせるように努める。山中くんが言おうとした変な事は……なるべく考えないようにして、ベッドから降りてそそくさとバスローブを纏った。


 山中くんにやましい気持ちがないことは、今までに知った彼の事を思えばなんとなくわかる。だけど、それと同じ場所で着替えることができるかというのは全く別の話だ。


 不意に一抹の寂しさが胸を掠める。

 彼と私の反応の違い。それは私と山中くんの温度差を如実に表すもののような気がする。少なくとも、私は凄くドキドキして恥ずかしいと思ったけど、山中くんは何も思わないし感じていない。

 私だけが、意識してるのかな……?


 私はその下向きな思考を振り払った。

 今大事なことはそんなことじゃない。やっと山中くんと向き合うチャンスがやってきたのだ。


 あの日、彼を信じると誓った想いを胸に宿して、一歩を踏み出す勇気を改めて心に刻んだ。


 

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