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『心の温もり』~約束の藤色のハンカチ~  作者: 風花 香


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悍ましい恐怖

挿絵(By みてみん)





 そこに立っていたのは面識のない人物だった。

 長身でガッチリした身体つき、短めの髪の毛にツーブロックというやつだろうか? 刈り上げた髪型。

 今私の周りを囲う人達より更に年上っぽくて、二十代前半くらいに見えた。


 この人は何なのだろう。この人達の仲間? 私の不安が更に募る。


「あ、(りゅう)さん」

「てめえら、女の子囲って何してんだよ?」 

「ああ~、これはそのぅ……」


 凄む『りゅう』と呼ばれた人物の一睨みに、私を取り囲んでいた三人はたじたじになっている。


「散れ、馬鹿どもが」

「すんませんでした~」


 三人はバイクを走らせ国道方面に消えて行く。


「君、大丈夫だった?」


 先程までの威圧的な態度と打って変わって、優しい口調で気遣いの言葉を掛けてくれるその人。助けてもらっておいて失礼なんだけど、正直少し怖い気持ちもあった。


「はい、あの……ありがとうございます」

「お礼なんていいって、あいつらは俺の後輩なんだけど、あの通りロクなことしねえんだ」


 自然に笑ったつもりだったが、多分傍から見てもすぐにわかる愛想笑いだったと思う。

 失礼しますと一声掛けてこの場を去っていいものか。そんなことを考えていると、『りゅう』と呼ばれたその人が思いついたように言った。


「また連中みたいなのが来ると危ないから、俺が送ってあげるよ。帰り道なんだろ?」

「え? いや、でも……」

「大丈夫、大丈夫。俺がいればあんなのが来たってどうってことないから」


 そういう意味で渋ったのではないけれど、助けてもらった上に更に良くしてくれようと提案してくれたその言葉を私は断れなかった。


「じゃあ……すいません。お願いします」

「ああ、行こうか」


 にこやかに微笑む顔の中で、その瞳だけが得体の知れない底光りする怪しさを含んでいるのを感じた。

 だけど、それはあくまでも一見すると強面の男性に抱く、私の偏見なのかもしれない。


 助けてくれたその人と横並びになり、私の家へと歩き出す。日も沈み暗くなった夜道だから一人で歩いて帰るのは確かに心細い。だけどよく知らない男性と二人きりというのも違う不安があった。


 家の場所まで知られるのは流石に嫌だな、なんて考えていると、その人は住宅街を外れていってしまう。

 不思議に思い「あの……」と声を掛けた瞬間、突然腕を掴まれ同時にその大きな手で口を塞がれる。


 突然のことで頭が真っ白になる。抵抗しようと試みたが、力の差が歴然としていてとてもじゃないが逃げられない。


「ちょっとおとなしくしててくれるかなぁ」


 ドスの効いた低い声で言われ、私はそのまま引きずられるように歩かされる。

 辺りは林に囲まれ民家はなく、人通りが極端に少ない場所。それもそのはずで、この先は工場跡地だ。


「ほらよ」

「きゃっ!」


 そこまで引っ張られると乱暴に放られ、地面に倒される。

 くしゃっと柔らかい草が下敷きになる感触と、湿った地面がスカートを濡らす。


 慌てて上体を起こした私の目の前に、ずいっとしゃがみこむ男。その顔には先程までの朗らかさは微塵もなく、残忍な笑みが浮かべられていた。


「実は……さっきの三人と俺はグルだ」

「え?」


 狼狽する私をさも可笑しそうに眺め、くつくつと笑い声を上げる。


「くっく、すぐに引っかかるんだよなぁ。危ない所を助けてあげただけで良い人だと勘違いしやがる。特にきみみたいな純情そうな子はさぁ」


 がたがたと震え出す身体。寒さのせいではない、悍ましいほどの恐怖が心を支配し、身体の制御を受け付けないのだ。

 精一杯に動かそうとした身体は、立ち上がる事も叶わず、ただズリズリと後退るだけ。


「ははっ! いいねぇ! 逃げようとするのを捕まえるのは俺好みだ」

「竜さん!!」


 足音に気が付かなかったが、先程の三人がここにやって来ていた。


「上手くやったんすね、流石っす」

「このやり方編み出してから失敗なしじゃないっすか?」

「竜さんイケメンだし、女も安心するんすね! また可愛い子捕まえて」

「当たり前だろ。後でお前らにもやるから、念の為しっかり見張っとけよ」


 私は絶望と恐怖に打ちひしがれる。これからこの身に起こるであろう恐怖は想像も及ばないほど凄まじい。


 もう、駄目だわ……。

 

 竜と呼ばれる男が私の前に仁王立ちになり……。


「成瀬」


 縋る気持ちが幻聴を聞かせたのかと一瞬思った。聞き覚えのある静かな、私が最も聞きたかった声が、私の名を呼んだ。

 どこまでも冷静なその声に、僅かばかりの息切れが混ざっている。


「山中……くん」


 会いたかった人が、今そこに立っていた。

 

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