プロローグ
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人間とは何を以て人間と言うのだろう……。喜怒哀楽、感情の多感さが人間と動物を分けるのだとしたら俺はきっと人間ではない。いや、動物といえど我が子を慈しみ愛する感情を持っている。仲間と協力する協調性、他と共感する能力を有している。更に言うならばそもそもの生存本能、生きたいという欲求はきっと殆ど全ての生命体が持つ共有意思のはずだ。
ーーーーそれ等全てを有していない俺は一体何だ? 人の形をした化物だろうか。だからどうということもないし、それを知りたいという欲求もない。今このような思想に至ったのも単なる気まぐれであり、どっちでもいいことだ。
そして今日も俺はコインを投げる。俺の行動を決める指標であるソレは固い金属音を響かせて床に落ちた。桐の花を上に向けている事を一瞥し、俺は家を出た。
その日の朝、私の胸を打つ出来事があった。それは、クラスのどこからともなく聞こえてきた女の子同士の会話。
「明日香と片桐くんってさ付き合ってるんじゃない?」
その一言だけで、私の意識の全ては会話へと持っていかれた。
「そうなの? 確かに仲良くしてるけど、二人とも人を選ぶタイプじゃないし、普通に接してるだけじゃない?」
「ところがね! 二人が一緒に帰ってるの見たんだよね!」
否定される事も織り込み済みだったのか、そのゴシップ好きな女子生徒は自信ありげに有力な情報を示してみせた。図書室で借りた本を開く手が震える。文字の羅列がまるで知らない言語に変換されてしまったかのように内容が全く頭に入らない。
「え? 校外でもそんな感じなの? じゃあ、ありえるかもね」
「でしょう? まあ美男美女だし、お似合いっちゃあお似合いじゃない?」
「なんか機嫌悪そうだよ?」
「そんなことないっ! ただ、いつだってかわいい子は優遇されてるよなって思っただけ! ええ、僻みよ僻み!」
「そんな素直なあなたにもいいことあるよ」
私の胸を締め付ける会話はそこまでだった。片桐優吾。小学四年生の時、クラスで虐められていた私を助けてくれた男の子。その時から彼は私のヒーローであり、私の胸を高鳴らせる存在だった。そしてそんな彼は、親友である明日香の想い人。お互いに打ち明けていないが、私は明日香の気持ちを知っている。
私の胸に暗い翳を落とし、水面を荒立たせるように波紋が広がる。
窓際の席からその会話をしていた女子グループをチラッと見やる。教室入り口近くに設置されたストーブを囲んでいるその子たち。
視界の間、斜め前に座る男の子。この時はまだ私の目に彼の姿は映っていなかった。