第1話 森に住む小さな『魔女様』 #4
そんな出来事から数日経ったある日のこと。
大きな帽子を深く被り、久しぶりに街へ訪れていたラズリルは、街の一角でこんな会話を耳にしました。
「おい、知ってるか? 三番街に住んでる子供が森の魔女様に会ったんだとよ」
「まぁ、怖いわね」
「話を聞いたときは俺も震えちまったよ」
会話の内容は先日ラズリルとラピスくんが助けた男の子のことのようでした。
―――むぅ……。またボクのことを魔女って言ってる!
ラズリルは頬を膨らませます。
―――いいもん! いつの日かお母さんみたいな薬師になってこの街の人たちにボクが魔女じゃないってことを分からせてやるんだから!
ラズリルはぷんすこと怒りながら近くのお菓子屋に入って行ってしまいました。
なので、ここから先の会話をラズリルは知りません。
「その子供、魔女様に失礼なことをしていなければ良いけど……」
「俺たち……、いや、この街の奴らはみんな魔女様のおかげで怪我や病気に怯えること無く、暮らせているようなもんだからなぁ」
「もし魔女様が怒ってあの森から出て行ってしまったら……。ああ、想像しただけで怖いわ。それはこの街にとってとても不幸なことだもの」
「そういや、最近ここいらの家畜を食い荒らしてた害獣も魔女様が退治してくれたんだとよ」
「あらそうだったの。魔女様には本当に頭が上がらないわね」
「ああ、そうだな。だから俺たちも魔女様を決して怒らせないようにしねぇと」
魔女というのは世間では不思議なチカラを持ち、恐れられ、怖がられる女性のことを指します。
街の人たちのラズリルに対する魔女という呼び名は決して間違ってはいませんでした。
なぜなら、ラズリルが怒っていなくなってしまうことに恐怖を抱いていたからです。
だから、彼らは感謝と敬意とを込めてラズリルのことをこう呼ぶのです。
『魔女様』と。