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魔女な薬師と無口なゴーレム  作者: 西洋和菓子
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第1話 森に住む小さな『魔女様』 #3



 それからしばらく経って、男の子の怪我はもう痛みを感じないぐらいに良くなりました。


 「すごいね。本当に全然痛くなくなったよ」


 「えへへー! そうでしょ! でも、まだ完治してないから安静にしてないとだめだよ」


 そう言いいながら、ラズリルはすり鉢で粉末上にした薬草のようなものを壺のようなお鍋に入れ火をかけます。


 長い木のへらで掻き混ぜながらグツグツと煮込んでいる姿はまるで童話の中に登場する魔女そのものだったのですが、男の子はそれを口にしません。言えばラズリルが不機嫌になると分かっていたからです。


 「今は、何をしてるの?」 


 「君の弟のための熱冷ましのお薬を作っているんだよ」


 「本当に治せるの?」


 「もちろん!」


 「ありがとうラズリルちゃん!」


 腕の怪我を簡単に治してしまったラズリルのことを男の子はすっかり信頼していました。


 ラズリルもそんな男の子の反応に悪い気はしないようで、自信満々にぺったんこな胸を張りました。


 「といっても、本当はまだ材料が足りないんだ。だから今はラピスくんに採りに行ってもらってて、それを入れて少し煮たら完成かな」


 「ラピスくんって?」


 「あ、ラピスくんっていうのはボクの友達でね、すっごく力持ちなの。君をここまで運んでくれたのもラピスくんなんだよ」


 ラズリルはラピスくんのことをすごく誇らしげに嬉しそうに語ります。男の子にもそれが伝わったので、そのラピスくんもラズリルのようにとても良い人なんだろうなと思いました。


 「ラズリルちゃんって……」


 「ん? なぁに?」


 「……う、ううん、なんでもないよ!」


 男の子はラズリルの作る不思議な薬の数々に、彼女の正体が街で噂されている魔女様ではないかと疑い始めました。


 しかし、友達のことを嬉しそうに語るラズリルを見ていてその考えを改めました。


 魔女様は決して怒らせてはいけない怖い存在であると聞かされていたので、ラズリルのようにとても優しい素敵な女の子が魔女のはずが無いと思っったからです。


 「……ん? あ、ラピスくん帰ってきたみたい!」


 鍋を掻き混ぜながら窓の外を眺めていたラズリルはラピスくんが帰ってきたのを見つけると大急ぎで玄関の扉の前まで飛んで行きました。


 男の子もラズリルの後に続きます。ラピスくんという人にちゃんとお礼を言うためです。


 「おかえりーラピスくん」


 「あ、あの……、倒れていたところを助けてくれてあり……が……―――ッ」


 しかし、玄関の扉が開いた瞬間、男の子は驚きのあまりに絶句してしました。


 「これがボクの一番のお友達のラピスくんだよ!」


 笑顔でラピスくんの紹介をするラズリルの声すら男の子には届いていません。


 なぜなら、ラピスくんは人では無く、男の子よりもずっと大きなゴーレムだったからです。


 ラピスくんは男の子に礼儀よくお辞儀を返しましたが、放心している男の子がそれに気づくことはありませんでした。


 「ラピスくん、薬の材料は採ってこれた?」


 ラズリルが聞くとラピスくんは無言で頷き、それを二人の前に見せました。


 ……ゴロン。


 「……ひっ!」


 「わぁー、大物だね」


 それは牙の鋭い、いかにも獰猛そうな肉食の獣でした。


 獣は首がぐるりと曲がり、牙を剥き出しにしてでろんと舌を出して息絶えています。


 さらに言葉を失う男の子に対しラズリルは大喜びです。


 ラズリルはラピスくんに指示を出し、獣を大きなまな板の上に置いてもらいました。


 「よいしょっと」


 ラズリルが大きな鉈を両手で構えます。


 そこから先の光景は男の子にとって、想像以上にショッキングなものでした。


 「てやぁーっ!」


 ぐちょっ!


 「そりゃーっ!」


 めちゃっ!


 目に映るのは赤、赤、赤……。赤の一色。


 ラズリルの服にもその赤い色が付着しましたが、身につけている服の色のおかげで付着したシミは目立ちません。


 「えへへ、すぐに作っちゃうからね」


 笑顔で獣を解体する女の子、というあまりにショッキングな光景に男の子は気を失ってしまいました。


 しかし、ラズリルが男の子の失神に気づくことはありません。


 しばらくして熱を冷ます薬が完成し、ラズリルは瓶詰めにした薬を男の子に薬を運びます。


 「さぁ、出来たよ。これを飲めば弟君の熱もばっちり下が……、って、ありゃ?」


 ラズリルが男の子を覗き込むと、彼は静かな寝息を立てていました。


 「お薬を作ってる間に眠っちゃったのかな?」


 ラズリルがラピスくんと顔を合わせて首をかしげます。


 その可愛らしい顔には、獣の返り血がべっとりと付着しているのですがラズリルとラピスくんにとってはいつものことなので気にも止めません。


 「まったくもう、世話がかかるんだから。ラピスくん、森の外まで連れてってあげようか」


 ラピスくんが声無く頷きます。


 ラズリルはやれやれと思いながら、男の子を街の近くの安全な場所まで運んだのでした。


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