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魔女な薬師と無口なゴーレム  作者: 西洋和菓子
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第1話 森に住む小さな『魔女様』 #1

ここはアメジスタの森と呼ばれる深い深い森の中。


 周辺の街や村に暮らす人間たちは森での遭難や獰猛な獣を恐れ、決して深くは踏み込みません。


 そんな人を寄せ付けない森の奥に、朱い煉瓦造りの煙突がトレードマークの小さなアトリエがぽつんとありました。


 アトリエの一室には十歳程度の外見をした少女が一人。ロッキングチェアにどっかり座りながらテーブルの上に広げられた多くの手紙を読んでいました。


 彼女の名前はラズリル。今は亡き母に憧れ、薬師を志すハーフエルフの少女です。


 ラズリルは自分に宛てられた手紙を読んだまま静かに肩を震わせていました。


 「どうして、いつもいつも……」


 手紙の内容は以下の通りです。


 『この間は本当にありがとうございました。魔女様のおかげで元気になりました』


 『魔女様、どうか息子の病気を治してください!』


 『まじょさま おとうさんをたすけてくれて ありがとう』


 『依頼状:魔女様のお噂を耳にしました。是非とも我が店に魔女様の作る薬を商品として入荷したいと思います。つきましては―――』


 助けを請う手紙、感謝を述べる手紙。仕事の依頼。


 様々な内容が入り混じる中、すべての手紙にひとつの共通点がありました。


 それは……。


 「ボクは魔女じゃなくて薬師なのにぃーーっ!」


 そう、すべての手紙にラズリルのことが魔女と書かれていたのです。


 魔女というのは不思議なチカラを持ち、人々から恐れられ、怖がられる女性のことを指します。


 確かにラズリルの作る薬にはエルフである父親から受け継いだ秘術を使い、普通の薬とは違う不思議なチカラがあります。


 ですが、ラズリルは他人を怖がらせるようなことは一度もしたことがありません。


 手紙を読んだラズリルはとってもご機嫌斜めでした。


 亡き母に憧れ薬師を志すラズリルにとって、薬師では無く魔女と呼ばれることはどうしても納得がいかなかったのです。


 「こんなに可愛い女の子に向かって魔女だなんて、みんなひどいよ。もう」


 ラズリルはぷんすこと怒りながら鏡の前に立って自分の姿を改めて見つめます。


 エルフの血が混ざっているせいで、まったく成長しない幼い身体。


 少しでも大人びて見せようと膝裏まで伸ばした自慢の瑠璃色の髪。


 衣装は薬を作るときのシミを考慮して、黒と紫の色を主とした洗いやすいく、可愛らしいデザイン。


 外出用の外套や帽子も今着ているインナーに合わせた可愛らしい衣装です。


 ラズリルはくるりと鏡の前で一回転をしてポーズを決めました。


 ―――うん、大丈夫。どこからどう見ても怖く無い、可愛い女の子のはず。


 などと少しだけ自画自賛します。


 ―――なのに、どうしてみんなボクのことを魔女って言うんだろう……? 何か怖がらせるようなことでもしちゃってるのかなぁ?


 大きなため息がこぼれました。


 ラズリルには魔女と呼ばれる原因について思い当たる節がまったくありません。


 日頃から森に篭って薬を作ってばかりいるので、他人と会う機会だってほとんどありません。


 五日に一度の買い物で近くの街に赴くときに顔見知りのお菓子屋の店員さんと話す程度です。


 ラズリルがそんなことを悩んでいると、鏡越しに背後にとても大きな存在が立つのが見えました。


 それはゴツゴツとした岩の塊。この世界ではゴーレムと呼ばれる存在でした。 


 「あ、ラピスくん。ねぇ聞いてよ。みんなひどいんだよ!」


 ラピスくんと呼んだゴーレムに先程まで読んでいた手紙のことを話します。


 彼は―――ゴーレムなので性別は分かりませんが―――このアトリエに一緒に暮らすラズリルの大切なお友達です。


 ゴーレムであるラピスくんは声を出すことありませんが、いつも静かにラズリルの話を聞いてくれます。


 「ってあれ……? ラピスくん、なにを持ってるの?」


 ふと、ラピスくんが何かを抱えていることに気がつきました。ラズリルは足先をピンと伸ばし、背伸びをしてラピスくんの抱えているものを覗こうとします。


 「ぐぬぬ……!」


 しかし、身長が足りなくて腕の中を覗けません。


 必死に背伸びをして腕の中を覗こうとするラズリルに、ラピスくんは身を屈め抱えているものを見やすいようにしてくれました。


 ラズリルはラピスくんにお礼を言って改めて腕の中を覗き込みます。すると、そこには人間の男の子が眠っていました。


 この子どうしたの? とラピスくんに聞こうとした矢先にラズリルは抱えられている男の子の異変に気がつきます。


 男の子は衣服の下から赤い血を流していたのです。


 「大変! 怪我してる!」


 ラズリルは慌てて傷口があるであろう場所の衣服を強引に破り、すぐさま怪我の状態を確認します。


 そこには動物に深く傷つけられたような跡がありました。


 ―――この子、森の獣に襲われて怪我をしたんだ。傷口が深いし、下手したら骨まで傷ついているかも……。


 ラズリルはすぐに、怪我に合った薬の調合を考えます。


 「ラピスくん、その子の傷口を真水ですすいでおいて! それからベッドへ安静に寝かせて」


 先ほどまでの人間への怒りはどこへやら、ラズリルは冷静な判断と的確な指示を飛ばし治療行動に移ります。


 「ボクが魔女じゃなくて薬師だってところ、ちゃんと証明してやるんだから!」


 ラズリルはそうボヤきながら傷口の手当を始めました。

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