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自信

「え?え?まさか、く、く、くるみちゃん?」


数々のレイヤーさんと関わったり、SNSでレイヤーさんを検索するようになり、コスしている時と普段の姿が全く違うレイヤーさんがいる事にもう驚く事は無いと思っていたのに。

目の前の現実は驚愕を通り越していた。

瞬きの少ない大きな目でこちらを見ている女の子はごくごく普通の女の子で、人混みの中に埋もれてしまったら数秒でどこに行ったか分からなくなる程、何の特徴も無い女の子だった。

この子があの日見たアニメキャラクター、リリアちゃんのプロレイヤーのくるみちゃんなのか?

あの時、一瞬にして僕を二次元の世界に引きずりこんだレイヤーさんなのか?


「私が本当にリリアをやっていたのか?って思ってるんでしょ?目の前にいるのは本当にあの時のリリアなのか?」


くるみちゃんに僕の胸の内をそのまま読まれてドキッとした。

彼女はそこで一息つき、右手を口元に置きクスッと笑った。


「私、自分の顔コンプレックスだらけだったの。小さい頃から写真嫌いで、誰の記憶にも残って欲しくなかった、どうして自分はこんなにブスなんだろうって思ってた。しかも、昔はおまけにデブだったから余計にね。その事で親を恨んだりしたけど、そんなのただの逆恨みよね…。あー、もう全てがイヤ何も楽しくない!…、そんな中でセーラー服戦士に救われたの!私もセーラー服戦士のようになりたい!」


それから、必死だったわよ、と。

一気にそこまで捲し立てるものだから、彼女の事、心音ちゃんの事を紹介できずにいた。

心音ちゃんなんてさっきからどうしていいか分からず何度も僕と彼女を見比べている。

彼女はそんな事全く気にしていない様子で、一旦駅構内の時計を見て、ハッとしたように瞬きをした。


「てか!貴方達もセーラー戦士の映画見に行くんでしょ?時間大丈夫なの?」


心音ちゃんのリュックについているセーラーピンクが目に入ったのだろう。スマホを取り出し上映スケジュールを確認して数回瞬きをした。


「大変、あと10分で始まっちゃうじゃない!急がないと…」


「あ、本当だ…、でも、僕達は何時のでも大丈夫だから」


映画グッズも事前に纏めて購入済みのため今日は映画さえ見れればいいので時間は気にして無かった。


「あ、そうなのね、私も何時のでも大丈夫なので良かったら一緒に行かない?」


え?

ぽかんと口を開けたまま心音ちゃんを見ると、くるみちゃんの話に頷くだけだった彼女も僕と同じ表情(かお)をしていたのに気付き、慌てて声を出した。


「で、でも、それは…だってくるみちゃん、彼女と初対面でしょ?」


心音ちゃんと言うべきか彼女と言うべきか一瞬悩んだ。

くるみちゃんは、え?今さら?と言うように訝しげに首を傾けるのを見て、心音ちゃんが咄嗟に自己紹介した。


「黒崎愛音です。初めまして!」


「………、あ、…そう、そうね、初めまして、レイヤーのくるみです」


さっきまでの口調と違い歯切れ悪くくるみちゃんが頭を下げた。

一瞬表情が曇ったのは僕の見間違えだったのだろうか?

ともあれ、せっかくの心音ちゃんとのデートだったのに、不用意な侵入者に邪魔された気分ではあったが、ここで邪険にする訳にもいかず三人で映画に行くことになり、道中、くるみちゃんはずっとしゃべっていた。


「初めてコスプレした時は今でも覚えてる、まぁ、実際はコスプレとまでいかないんだけど。届いたばかりのセーラー戦士の衣装を着て鏡に写る自分の姿をずっと見ていたくて、なんなら誰かに見て欲しくて、でも、やっぱり、まだ人に見せられるレベルじゃないから必死でダイエットして、メイクの勉強して…ただの自己満足で初めた事なのに今ではプロレイヤーとまで言われるようになって。ああ、人生何があるか分からないなって」


映画までまだ少し時間があったので近くのカフェに入った。


「今は写真撮られるのが大好き。もっと私を見て欲しい、みんなの記憶に残って欲しい、なんて思えるほどになった。あんなに嫌いだったあの頃の自分でさえ愛しく思えるの…」


自信に満ちたくるみちゃんはすごく可愛かった。




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