愛しの彼女
「しっかりして、心音!」
「わたひは心音ぢゃなくて、へーらーピンクらよ」
呂律の回らない口調だったが、言おうとしている事はちゃんと分かった。
何と…!
やっぱり彼女があのコスプレ会場で出会ったセーラーピンクをやっていたレイヤーだったのか!
こんなに近くにあの彼女がいたなんて。
何と言う奇跡だろう?
こんな奇跡があっていいのだろうか!
と素直に思って喜べれば良かったのだが…。
複雑な気分になる。
あのイベント会場で一目惚れした彼女が目の前にいると言う現実が受け止められ無かったのか?
はたまた彼女に会いたくてレイヤーになろうと決意していたのに、こんなにもあっさりと当の本人に会えたからなのか?
その2つの気持ちが交差して納得の応えが出ないまま、ふらふらと千鳥足で歩く心音ちゃんとその彼女を必死で椅子に座らせようとするエリのやり取りを見ていると。
微量のアルコール入りチョコを食べたせいで酔っぱらいに変貌してしまった彼女は完璧にボク達がここにいるなんて認識が無くなっていたようで、ふんふんと誰もが知っている童謡を口ずさみしながら、くるくると踊り始めた。
これはさすがに止めないと。
「心音ちゃん、だ、大丈夫?」
「らからー、わたちはここねぢゃないですぅ、なんろ、言ったら分かるんれすか?」
何度も自分の事を心音と呼ばれて、すっかり気分を害してしまったらしい彼女は、宙を歩いているような歩き方で、ボクに近付こうとした。
が、テーブルの角に体をぶつけ、そのまま倒れそうになる。
「ひや」
小さく叫んだ彼女の体を間一髪支える事ができた。
「大丈夫?」
彼女の頭を抱えながら尋ねると、彼女は、
「ほえ?」
と、まるでアニメのドジッ子ヒロインのような声を上げてボクを見上げた。
視線の定まらなかった彼女の瞳が真っ直ぐにボクを捕らえ、パァと輝き出すのが分かった。
「あ、あ、あなたさまは、あのナイトさまでございますね!わたくし、あなたさまをずっとずっとお慕いしてほひました」
「え?」
ボクの手を握るもんだから、体温が伝わってきて手汗が爆発しそうになる。
「心音ちゃん?大丈夫?」
「わたくしは心音でわございません。あなたのあなただけのセーラーピンクでございます、ずっとずっとあなただけを見つめております、やっと巡り会えましたね」
そう言って唇を近付けてきた。
え?え?この状況って?
き、き、キス?
「ストップーーー、こら、心音」
にはならず、エリがボクと心音ちゃんの間に入り、必死で心音ちゃんを止め、心音ちゃんの体を自分の方に引き寄せた。
「あー、びっくりした、ちょっと、心音、あんた本当に大丈夫なの?ん?あれ?心音?」
さっきまであんなにはしゃいでいた心音ちゃんはエリの膝に頭を乗せたまま、静かな寝息を立てていた。
「もう何なのよ、一体…」
疲れたーと言ってへたへたと肩を落とすエリとエリの膝枕で眠っている天使のような心音ちゃんを見ながら、もう一度強く決意した事があった。
彼女がボクのどこを見て、そう思ったか分からないが、ボクは絶対にセーラーピンクのナイトのコスプレをして彼女と併せて見せる!