ミューの告白1
「え?私レイヤー止める気ないよ」
夕暮れ時、ファーストフード店にやってきたミューは全くいつもと変わらない様子でボク達の前に現れた。
意外なほど明るい笑顔にボク達はこの時のために用意していた全ての言葉を失ってしまった。
きょとんとした顔で指についたポテトの塩をおしぼりで拭き取った。
まぁ、そんなもの用意したところで実際に会ったら何も言え無い事は分かっていたが。
昼休み終了間際『学校終わったらいつもの店に集合』とグループラインで送ると、和喰からはすぐにスタンプでの返信があったがミューの方は放課後になっても既読もつかなかった。
だから、こうして目の前に現れるまではもしかしたら今日の集まりがただの痴話話で終わってしまうのではと言う不安があった。
こうやっていつもと変わらない時間を過ごす事もそれはそれでいいが、窓の外の陽が更に西に傾いているのを見ると確実に時間は過ぎてると言う事が否応なく分かってしまう。
今は親たちが言う時間があっと言う間に過ぎると言う実感はまだそんなに感じないが、それでも時間は無限では無いと言う事は分かってる。
だから、こうしてミューに会えた事が嬉しい。
「オニオンフライって一口でたべないと中身の玉葱だけ出てきて、衣だけ食べる空しさあるよね!」
などとオニオンフライの食べ方を意気揚々と語っているミューを見ると、誹謗中傷なんか気にしていないのでは…?
何てそんな事思ってしまう僕はまだまだだなと次の瞬間思い知らされる。
「おいおい、それボクゥのポテトぉ、取るなよぉ」
「いいじゃん、こんなにぃあるんだからぁ、和喰食べ過ぎだよぉ」
和喰の口真似をしながら和喰のポテトを口一杯に頬張るミューを見て、そんな自分の考えは浅はかだった事を悟った。
気にしていない訳ないじゃないか。
不自然なほど明るいミューを見て、普通なら気付くだろう。
ミューとはまだそんなに長い付き合いでは無いが、それでも、そんな違和感に気付かないほど薄い付き合いじゃない筈だ。
「もうね、めちゃめちゃ食べたいの!食べて食べて食べまくってやる!食べて食べてブクブクに太ってやるーブクブクに太ってセーラーブルーの服なんて着れなくなってやるー」
そう言いながら瞳から涙が零れ落ちた。
「傷付いてない…、傷付いてない…、傷付いてない訳ないじゃん!」
叫ぶように言ってギャン泣きし始めた。
周りの席の目なんて全く気にせずに泣き始めるミュー僕と高志はオロオロしていたが和喰だけは、うんうんと静かに頷いてた。
「そりゃー、レイヤー嫌いな人はたくさんいる事も知ってる、レイヤーなんてそこら辺歩いてる人間にカツラ被せただけでしょ?って言われてるのも知ってる。でも、でも。私、セーラーブルーの格好をしてる時すごく楽しかった!そんな私を見て写真撮らせて下さいって言われるのが大好きだった、だって、みんな笑顔で私に近付いてくるんだよ、嬉しいに決まってるじゃん!それなのに…」
ミューはそこで一度口をつぐみ。
「私はやっぱり心音にはなれない…」
そう吐き出した。




