宗教の勧誘
「え?愛音ちゃんのお友達なんですか!」
ほんの僅かな時間で和喰はくるみちゃんに簡単ないきさつを話したようで、僕にそう言った。
その言葉に少し違和感を感じたものの
口元を手で抑えくすっと笑う彼女の表情に釘つけになってしまった。
それはさっきまでステージでリリアちゃんとして見せていた笑顔とは違っていた。
それでも。こうしてすぐ目の前にいる彼女は本物のリリアちゃんにしか見えなかった。
完璧にそのキャラクターにメイクしているその姿は二次元から出てきたキャラそのままで。毎回毎回驚かされる。
レイヤーと言うのは本当にすごい。
って感心してる場合じゃなかった。
「和喰、そろそろ行ってもいいかな?」
徐にオレンジ色になってゆく陽が心を焦らせてゆく。
「ああ、そうか、そろそろラジオが終わりか…。くるみちゃんも一緒に行く?」
「私もご一緒してもいいんですかー?」
「もちろんだよ」
妙にハキハキと話す和喰は全くいつもと違っていて、ほんの少しばかりエリートに見えてしまう自分に僅かな苛立ちを感じてしまった。
そもそも、こんな大人数で行ったら心音ちゃんが困るんじゃないのか?
一秒でも早く心音ちゃんの側に行きたかったのに、余計な不安が胸を覆い足が重くなってしまった。
ただでさえ心音ちゃんは僕の事避けているのに。
そうだ、今僕は心音ちゃんに避けられているんだ。
改めて思い起こしてみて、ハットした。
そんな僕がこんな風に会いに行っていいのか?
自分を卑下したくはないが、これじゃあ……ストーカーみたいじゃないか?
「高志氏、どうかしたぁ?」
耳元で問い掛ける和喰の口調はいつもの和喰に戻っていた。
そんな和喰に思わず、
「和喰ぅー…」
泣きついてしまった。
「わ、わ、ど、どうした?」
「どうしよう、心音ちゃんに会うの急に怖くなってきた」
「へ?な、何言ってるんだよ?今さら…、心音ちゃんに会うためにここまで来たんだろうぅ?」
確かにそうなんだけど。
向こうから会う事を拒否されてるのに。
ラインも未読だったりするのに。
こんな状態で会いに行っていいのか?
嫌われる原因になってしまうのではないか?
「どうしたんですか?行かないのですか?」
きょとんとした顔で経緯を見ていたくるみちゃんと目が合う。
あー、こんなところを初対面のコに見られるなんて情けないな。なんて自覚があるのが幸いだった。
まだ完全には自分を見失っていない。
「何かただならぬ思いがあるのですね!あなた様のお気持ちは分かりかねますがそのように誰かに泣きつきたくたくなるお気持ちは分かります!そうなっても仕方ないです、人間ですもん」
まるで宗教の勧誘みたいな言葉だったけど、瞬きの少ない大きな緑色の瞳は信じられた。
「くるみちゃん…」
危うくくるみちゃんにも泣きつきたくなるのを理性が抑えると、予想だにしなかった言葉が降ってきた。
「大丈夫です。きっとうまくいくと思います!でも、もう会いに行く必要はなくなりましたね!」
「え?」
「だって、心音ちゃんそこにいますよ」
「え?」
くるみちゃんの目の先をゆっくり辿るとそこに心音ちゃんが立っていた。
大きなクリーム色の帽子を深々と被り、薄茶色のサングラスを掛けた心音ちゃんが、小さく唇を開いて僕を見ていた。




