推し画面
「もしもし、嶺ニさん?」
初めて電話越しに聞く心音ちゃんの声は少し震えていて画面を通して聞く快活で明るい声とはだいぶ違っていた。
「うん。大丈夫?」
『大丈夫?』頭の中で繰り返してみる。大丈夫じゃないと分かっているのに大丈夫?と聞いてしまうのは『大丈夫だよ』と答えて欲しいからなのかもしれない。何て人間は自分勝手な生き物なんだ。
僕はもっと違う言葉を言いたかったのに出てこない。こんな事なら国語の授業ちゃんと受ければ良かった…。
いや、人間の感情なんて学校の授業で学べる訳無いな。
僕はもう一度心音ちゃんに聞いてみた。
「大丈夫?」
「………、うん……」
集中してないと聞き取れない程の小さな小さな声はひょっとしたら僕の幻聴では無いかと思ってしまう。
外で電話しているのだろうかあちら側から物音やら話し声が聞こえる。
慌ただしく動いている音はまるで別の世界に感じた。心音ちゃんの吐息だけがリアルな世界なんだと思わせてくれた。
「あのね……、嶺ニさん…」
「ん?」
「あのね……、ごめんなさい………しばらく連絡できそうにないです……」
アノネ……、ゴメンナサイ……、シバラク…心音ちゃんの言葉を脳内で再生しているとどこか遠い言語のように聞こえてきた。
聞きたい事はたくさんあった。
言いたい事たくさんあったはずなのに言葉が出てこない。
僕は何のために心音ちゃんの連絡を待っていたんだっけ?
エリが電話変わってとジェスチャーで訴えていたので黙ったままスマホを渡した。
「心音、エリだけど…。うん、うん、分かった、うん、くれぐれも無理しないでね、うん、何かあったらいつでも連絡してね、うん。またね」
手短にそう言うとエリは電話を切った。
「お兄ちゃんがしっかりしないでどうするの?うちらは今外野なんだよ!心音から連絡きたんだからそれで今は良しとするしかない」
また僕は自分の事しか考えていなかった。
どうして僕はこんなに小さな人間なんだろう…。
心音ちゃんの思い受け止めないといけないのに。
こんな小さな僕が心音ちゃんにしてあげられる事なんて何も無いのだから、言われた通りしばらく連絡しない事が一番なのだろう。
それでも、さっき聞いた頼りない心音ちゃんの声を思い出すと胸が疼く。
僕は返されたスマホから心音ちゃんにメッセージを送った。
うん、心音ちゃんならきっと大丈夫。
僕は今更ながら、朝の占いを思い出しスマホの待ち受け画面をセーラーピンクのコスをした心音ちゃんにした。




