奇跡のような偶然
まさか!
そんな奇跡のような偶然が何度も続く訳が無い!
妹の友達が、まさか声優の黒崎愛音…?
「ちょっと、お兄ちゃん?」
硬直状態になってしまったボクは妹の声で現実に返った。
「あ…。えっと、ごめん。キミの声が…その…ボクの好きな声優にとてもよく似てて可愛かったから」
「え?」
途端に彼女の顔がみるみるうちに真赤になり、口をパクパクと動かした。
「わ、わ、私、じ、自分の声そんな好きじゃないし、この、声のせいで、い、いじめとかにあった事もあるから、そんな風に言われると…、嬉しくて…」
メガネの奥の大きな瞳を潤ませて、わなわなと体を震わせる彼女が可愛すぎて…。
突如得体の知れない感情に襲われてしまい、生まれて初めて時間が止まると言う錯覚を覚えた。
彼女がもし黒崎愛音だとしたら…。
あのイベント会場でセーラーピンクのコスプレをしていた人物かもしれなくて。
いやいや、いくら何でもそんな偶然たて続けに起こる訳なんてないだろう?
だけど…。
今目の前にいる彼女は、今までボクが見たどんな女の子よりも可愛いのは紛れも無い事実だった。
「お兄ちゃん、それに心音!ちょ、ちょっとどうしたの?二人ともしっかりして」
妹のエリが、異様な空気に包まれた空間を切り裂いた。
「そもそもバカ兄貴がこんな訳の分からないコスプレページなんて開いてるからこんな事になるんじゃない。さっさっ、もうご飯だよ、心音も夕飯食べたらすぐに家に帰らないとなんでしょう?」
「あ…うん」
「じゃあ、私たちは先に下に行ってるから、バカ兄貴も早く降りて来なよ」
強引に妹に手を取られた心音ちゃんはボクの部屋を出る前に、
「あ、あのありがとうございました」
その言葉だけを早口で言った。
えっと、何だっけ?
そうだ、まずパソコンの電源を切らないと、そして、そして、それから…。
これから、あの彼女と一緒に夕飯?
今さらながらまた鼓動が速くなる。
平常心平常心と自分で言い聞かせるものの、この気持ちの高鳴りはあと少し続くらしい。
部屋に残った彼女の残り香がボクの鼻をくすぐった。




