夢半ば
目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。
と言うか一睡もできなかった。
それなのに全く眠くない。眠く無いどころかビンビンに目が冴えてる。
休みの日は何時間でも寝ていられるぐらい寝るのが大好きな自分がこんな快適に朝を迎える事ができたのは小学生の頃の遠足以来だ。
「お母さん、お兄ちゃんがさっきからずっとニヤニヤしててキモいんだけどー。しかも、さっきからポロポロポロポロご飯零してるしー」
「嶺ニ、どうしたの?何かあったの?」
何も返事しないボクを置いて会話する二人。
「お兄ちゃん昨日家に帰った時からおかしかったよね?靴脱がずに居間入ってきたし」
「そう言えばそうね!歯磨き粉にハンドクリームつけてたし」
母親とエリの声が耳に入って無い訳では無かった。
だけど、不思議な事にそれが別次元での会話に聞こえた。
まるで遠いとこの音声のように感じられた。
頭の中がフワフワとしていて、そのフワフワが体全体に行き渡り、まるで宙に浮いてるように感じられた。
「お母さん、いつも美味しい朝ご飯をありがとう。今日も一日元気で過ごせるよ」
うまく箸で掴めないけど、正直今日何食べてるか分からないぐらい味覚を感じられないけど。この世の全てに感謝ができる。
「あんた本当にどうした?どこかで頭でも打ったのかい?」
ドン引いた母親とエリは二人してワナワナと震えながらこっちを見ていた。
そんな中誰にも注目されていないテレビは今日の運勢を伝えている。
『今日の蟹座の運勢は最悪です。だけど、大丈夫。あなたの推しをスマホの待受け画面にすれば運気は回復するでしょう』
「お!蟹座最下位かー。まぁ、そんな事もあるよな。早速待受け変えるかー」
推し…?ボクの推し……?
そんなの黒崎愛音に決まってるー!!
あーー、言いたい大声で今すぐ言いたい。
ボクは黒崎愛音、心音ちゃんの事が世界で一番大好きだー。
そして……彼女も……。
ハイテンションだった思考回路が急ブレーキを掛けて停止した。
あれ?昨日の事は本当の出来事だったよな?
昨日一晩中思い出していたじゃないか。
何度も何度も心音ちゃんから出た言葉を頭の中でリピートしていたじゃないか。
しかし、それ自体が自分の妄想だったら……?
そんなボクの心の声なんて分かるはずなく…母親とエリは相変わらず引いた顔で話を進めている。
「嶺ニ、どうしたの?今度は急に黙り込むなんて…今日は学校休んで病院に連れて行った方がいいかしら?ねー、エリー?」
「私に振らないでよ。お兄の事はお母さんに任せるー、じ、じゃ私もう行くから」
「ちょ、ちょっとエリ無責任な!お兄ちゃん一緒に連れて行ってよー」
困り顔の母親はボクの首根っこを掴むと強引に玄関の外に押しやった。




