暗雲
「お!」
スマホを見ながら思わずテンション高目の一言が口から出てしまい、隣を歩いていた高志が目を丸くしてこっちを見てきた。
「何だ、その声?急にどうした?」
足元にぴったりとくっついている影を踏みながらの帰り道。
まだ太陽が高いうちに帰れるのは嬉しいに越した事はない。
これが自分の評価を決められはたまた人との優劣をつけられる中間テストと言う名の試練で無ければ尚嬉しいのだが…。
さて、話を戻すと。
心音ちゃんの事を考えながらTwitter画面開いてみて驚いたのだが、自分のフォロワーの数がとても増えていたのだ。
今まで数十人しかいなかったフォロワーの数が三桁になっていた。
「フォロワーが増えてる!」
「へ?それで喜んでるの?」
それだけかよと言うように肩を竦められた。
「フォロワーが増えて喜ぶとかSNSに踊らされてる哀れな現代人だな」
「だって、急に10倍以上の数になってんだぜ!」
「え?」
バカにしたような言葉を掛けてきた高志もその数字を聞くや否や僕の手からスマホを取り上げた。
「お、おい、勝手に見んなよ」
高志には自分のTwitterネームなど教えた事無かったから慌てて取り返そうとしたが遅かった。
「何だよお前、ナイト様って名前でTwitterしてんの?」
だから身近な人間にTwitter見られるがイヤだったんだ。
Twitterの世界は顔も知られてない人達とのコミュニケーションを取れるから楽しいのであってリアルの友達とそんなとこで話していても全く意味が無い。
「わりーかよ?」
「別に悪く無いけど…」
クスクスと笑いながら操作していた高志が、これだろう?これのせいだろう?と指さしてきた画面には、この間のニッコニッコ会議でセーラーピンクの格好をした心音ちゃんと一緒に撮った時の写真だった。
「この写真アップしたからフォロワー増えたんだろう?」
「へ?ナイト様のコスプレの写真ならその前にもアップしてたけどフォロワー増えなかったぜ」
「心音ちゃんと一緒に撮ったからフォロワーが増えたんだよ!お前一人の時の写真の時の『いいね』なんて一つだけなのに心音ちゃんと一緒に撮った写真の時の『いいね』の数見てみろよ?軽くバズってるだろう?」
そう言われてみると確かにその通りだ…。
「てか、お前こんなに堂々と心音ちゃんとの写真アップして心音ちゃんに気付かれるのも時間のうちだぜ?」
「あ」
そうだ、そんな事になったら心音ちゃんをフォローしてる事もエゴサーチしてた事もバレてしまうかもしれない。
「そ、そうだよな、消さなくちゃ」
「もう遅せーよ、こんだけリツィートされてちゃ心音ちゃん本人に行き着くのは時間の問題だぜ。お前ってSNSに向いてないな」
心音ちゃんと撮れた事が嬉しすぎてついアップしてしまった事を後悔した。
灰色の雲がさっきまで踏みつけていた影を隠した。




