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一枚の写真

「ママ、お兄ちゃん気持ち悪いんだけど…」


「お兄ちゃんが気持ち悪いのはいつもの事でしょう」


キッチンで母と妹が自分をディスっているのは聞こえていたが、僕は自分でも分かるほどの腑抜けた顔のままスマホの画面から目を離す事ができなかった。

今日のナイトさまのコスをしたぎこちない表情の僕とセーラーピンクのコスをした心音ちゃんの笑顔のツーショットが嬉しすぎて何時間でも見ていられた。

それ以外にもたくさん撮ったけど、二人で映っているのはこれ1枚だった。

明日現像しに行って額にでも飾るか…ってそれじゃまるで変態みたいじゃん!と心の中で突っこみながら有頂天な気持ちは押さえきれない。


心音ちゃん達の完璧なレイヤーとの写真撮影はその後ニッコニッコ会議終了時間まで列が途切れる事無く続いたから、夕方になるとヘトヘトになってしまっていて、

「いやー、嶺二大人気だったなー。レイヤーデビューとしてはいい幕開けだったんじゃないのか!いいな、いいな女の子達に写真せがまれて!オレなんて誰からも撮影求められなかったんだぜ」

更衣室に帰る途中に合流した牧師の格好をした高志の皮肉めいた言葉にも答える余裕すら無かった。

高志は大きな十字架のペンダントも外し、フランシスコ・ザ○エルのようなハゲ面も取ってしまったから、そのキャラのアイデンティティーが無くなってしまって最早誰のコスなのか分からなくなっていた。

和喰も散々な結末だったみたいで、

「本当だよぉ!全部セーラーファミリーに持っていかれてオレなんて側にいたものの誰にも見向きされなかったぁ!ちくしょぉ」

どこから取り出したのかスナック菓子を口に頬張って歩いている姿も残念ながら、イケメンアイドルの十文字ツカサとは程遠くなってしまいただのオレンジ色のウィッグをつけた変な人になっていた。

「セーラーピンクの友人達は面白い人だらけだな」

心音ちゃん憧れのナイトさまも疲れてるはずなのに風を切って颯爽と歩いている姿はもし仮に同性だったとしても心が動かされてしまっただろう。

それほどかっこ良かった。

「うん!みんなとてもいい人!」

よく動く瞳でナイトさまを見上げてから僕の方を振り返った。

「ねぇ、そう言えば私達だけの写真撮ってなくない?」

「え?」

そう言えばあれだけ期待していた心音ちゃんと二人きりの写真1枚も撮ってない。

「ぼくぅと撮るぅー?」

指についたお菓子のカスをなめながら和喰の言葉をすかさず隣にいたセーラーブルーが止める。

「あんたはいいの!そうだよ、せっかく嶺二さん初のナイトさまなんだから二人で撮りなよ!」

「え?え?あ、ああ」

セーラーブルーに背中を押されて前につんのめりになった姿勢でセーラーピンクの横に立つ格好になった。

「え、えっと…」

改めて見るとやっぱり心音ちゃんのセーラーピンクは可愛い。

ツインテールをした桃色のウィッグを揺らしながら桜ピンクの大きな瞳で見上げている。

胸元に浮かんでる汗にドキドキしてしまい目を反らした。

「一緒に撮りましょう」

僕の両手に心音ちゃんの手が触れている。

ああ。

温かい…。

心音ちゃんとの距離も近付いたし。

また早くコスプレしたいそう思った。




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