ナイトさま…。
普段とは違う日常からかけ離れた空間。
目眩しいカラー溢れる髪の色。
二次元と言う枠から決して現れる事の無いアニメキャラ達が溢れている
何度か体験したもののやはりテンションが上がってしまう。
しかも今日はその夢の世界の中に自分も参加しているのだ。
黒のタキシードに黒のシルクハットの下に顔の半分を隠す仮面が何となくイケメンに見せてくれている。
黒いマントを風に翻してナイトさま華麗にニッコニッコ会議に参上。
と…言う感じで木立ちの下に立っている。
憧れのキャラの格好をしているだけでいつもと違う自分になれた気がして高揚が抑えきれない。
高志や和喰達はいつもこんな気持ちでいたのか。
これはコスやめられそうにないな。
何て格好つけてポーズしたところで誰も撮影を求めに来てくれないけど。
それもそのはずこの界隈で大人気のセーラーピンクのコスをしている心音ちゃんはあちらこちらで撮影を求められ僕は今一人の状態だった。
ナイトさまとセーラーピンクと二人一緒にいればこそ目立つし、セーラーピンクの完成度の高さ故関心を持たれていたのに僕はまるで自分が注目されていると言う錯覚を起こすと言う薄っぺらな意識を持ってしまった。
そんな中で急に一人になった今。
賑やかなイベントの中自分だけ取り残された感じになる。
いや、撮影を求められるだけの為にコスしている訳ではないのだが。
やはり寂しい。
高志達はどこに行ったんだろう?連絡してみようかな。
ズボンのポケットからスマホを取り出そうとした時、
「おーい、ナイトさま」
聞き覚えのある声に呼ばれて振り向くと、案の定セーラーブルーのコスをしたミューがいた。
「久しぶり、嶺二さん」
「おお、久しぶり」
今日のセーラーブルーはアニメで彼女が使用している等身大のロッドを持っているせいか前よりもセーラーブルーに近付いている感じになった。
「それどうしたの?」
「うん、自分で作ってみた!」
「マジで?めちゃすごいね!」
「ありがとう、YouTube見て頑張って作ってみた」
「すごい、すごい」
こうやって周りを見渡してみてもよく分かる。
レイヤー達がどれほど必死でキャラメイクやウィッグを工夫したりアイテムを手造りしたりしているのかが分かる。
「写メ撮っていい?」
首を縦に動かしたセーラーブルーは僕の前で決めポーズをしてくれた。
今日はカメラマンとして来ていないので一眼レフを持って来なかった事後悔した。
こっちを真っ直ぐに見ているミューは見事に完璧なセーラーブルーだった。
あれを持って来ていれば僕とセーラーピンクのツーショットも撮って貰えたのにな。
「はい」
データをミューに見せるとミューは嬉しそうに笑った。
「嶺二さん写真撮るの上手ですよね!今度は一緒に撮ってもらいましょう。あそこの柱の影とか雰囲気ありますよね?………って、あそこにいるのって、ナイトさま…?」
視線を敷地近くの柱にずらしたセーラーブルーは、はっと息を呑みこみ一点に集中していた。
そこには1輪のバラを持ったナイトさまのレイヤーが写真撮影に応じていた。
ナイトさまのレイヤーは人気なだけあって何人もいるがその誰とも比較にならないほど洗練されたナイトさまだった。
「…あれってもしかして?」
運命のナイトさま。
前にセーラーブルーが言った言葉を思い出した。
「うん、あれは間違いなくあのナイトさまだ…」
あれが…。ナイトさま。
あれが…セーラーピンクも憧れているナイトさま…。




