三日後
「なぁ高志。お前夢ってある?」
ボクの部屋で持参してきた手鏡でカラコンの具合いをチェックしつつまるでアイドルにでもなったかのようなポーズで自撮りをしている高志を見て半ばイラっとしながら聞いてみた。
「は?急にどうした?」
スマホでデータを確認して、うんうんと納得して『ラインのトプ画にしようかな』などと言った片手間に驚いた顔で僕を見るからより一層イラっとしてしまった。
「お前は何の悩みも無さそうで幸せだなー」
言いなが自分も対した悩み無いくせにと突っ込んでしまった。
考えてみると一つの事に真剣に悩んだ事無かったなー。
高校進学の時も自分が本当に行きたい高校など無くただ徒歩で行けるほどの距離にある高校にしようとそんな安易な気持ちで選んでいた。
偏差値も行ける範囲だし、共学だし行かない理由は無かった。
それで後悔はしていないし、まぁこれで良かったんじゃないかと思えているから万々歳なのかな?
だいたい15歳ぐらいで真剣に自分の将来を考えている奴なんているのか?
…心音ちゃんはちゃんと考えていた。
今もこれからだって。
心音ちゃんは立派な声優になるために日々努力してる。
「何かあったのかー?」
「別に」
そんな事を高志にいちいち話しても仕方ない。
僕はパソコンを開き遂に三日後にせまったニッコニッコ会議を検索した。
前売り券は高志がゲットしてくれたものの。
具体的な事は特に何も決めておらず。
「高志は結局この間の『一志』コスをやるのか?」
「いや。今回は違うのにしようと思ってる」
「は?また違うやつ?お前金大丈夫なのか?」
コスプレと言うのは本当にお金がかかる。
一つのキャラを貫き通すだけだとしても、衣装やウィッグ、小道具など数万円はくだらなくなる。
「そろそろお年玉が尽きてきた。まぁ、来月からバイトでも始める。…ついでにお前の分もバイト申し込んでおいたぜ」
そうだよな、一高校生がバイトもせずにレイヤーなんてできないよな。
…って、おい、ボクも?
「おい何勝手に申し込んでるんだよ?僕はバイトなんて始める気なんてこれっぽっちもないのに」
「だって…。一人じゃ寂しくてつい…ラーメン屋のバイトなんだけど、お前ラーメン好きだろう?」
いやー、それはラーメンは好きだけど。
思えば高志にはそう言うとこあった。
映画も一人じゃ行けずに前売りを僕に強引に渡すとか…。
そんな引っ込み思案のくせにレイヤーへの道は僕を誘う事なく進んでいたのだから、これもある意味進歩だな。
「は?意味分かんねー」
「いや、バイトして稼いで新しい一眼レフもしくはコスプレ衣装買おうぜ!ほらほら今はニッコニッコ会議に集中集中!今のとこ晴れ予報だし!楽しみだな」
ったく強引な奴だ。
だけど、憎めないから友達やれてるんだろうな。
コスプレ衣装か…。
僕は買ったきり一度しか袖を通していない部屋の隅に掛けられたナイト様の衣装をちらっと見てみた。
アレを着てボクも参加しようかな?
そんな小さな思いが胸をつついた。




