恋
深夜のアニメから爆発的人気声優アイドルユニット『フランソワコンポート』略して『フラコン』のセンターのKirariポスターが一面に貼られている高志の部屋に入るのはずいぶんと久しぶりの気がした。
声優がアニメキャラのコスをして歌ったり踊ったりとする今風のユニットだ。
何やらそわそわと高志が部屋の中を行ったり来たり動く度に、頭の高い位置でのツインテールをしてこちらを見上げているKirariのフィギュアがカタコトと音を立てる。
高志の一番のお気に入りのフィギュアは座った時に一番良く見える本棚の中段の位置にあった。
高校一年生の冬に始まったアニメ、当初はそのアニメについて、『うん、まぁまぁ面白いアニメだったよ』などとアニメ好きな高志にしては何とも良くない感想だったので、期待外れだったのかな?などと思っていたが、実際はその逆だった。
日に日に高志のスクバにそのアニメの缶バッジやらラバストなどが増えていった。
高志にはそう言うとこがある事忘れていた。
本当に好きな物を素直に好きって言わないとこがある事。
よくよく考えてみたら、高志がコスプレしたいって言い出したのってKirariに出会ってからのような気がする。
「おい、またそうやってスマホいじらないの、全く…」
あ。
高志に言われるまで自分の手にスマホが握られている事に気が付かなかった。
無意識のうちにスマホをいじっていた。
「あ…。すまん、つい…」
「ついじゃなくて、全く…そうやってぼんやりとかおいおいお前もうじき17だろう」
そんな偉そうな事言っている高志だったが、机に置いてあるグラスに入ったコーヒーにフゥーフゥーと息を吹きかけていた。
「高志、それアイス」
「あ、あ、ああ、そうだった。そんな事分かってる、分かってる」
そわそわと落ち着かない様子のこんな高志を見るのは二回目だった。
中学三年生の受験の時、当時同じ塾に通っていた他校の女子生徒の事を気にし始め勉強に全く身が入らなくなってしまった。
元々オレより勉強ができていたし、正直塾なんて通わなくても高志はある程度の高校に受かった気がするのだが、なかばオレの付き合いで一緒に通ってくれていた。
そんな塾で高志は恋をしてしまった。
それからの高志は塾に通った結果、塾に入る前の成績より下がってしまい親や教師に散々文句を言われる結果になってしまった。
それで、恋がうまくいったのならまだしも。
相手に想いを打ち明ける事すらできずに遅い初恋は終止符を向かえてしまったのだ。
これは間違いないな。
高志はもうじきここに来るセーラーブルーに恋をしている。




