決意
へ?
目の前にいるお似合いの二人はただのコスプレ仲間?
このイケメンオーラに溢れているナイトさまはセーラーピンクの憧れのナイトさまでは無かった。
さっきまで固まっていた心が解けていくのを感じる。
「何だー、良かった」
思わず漏れた本音は思ったより大きな声で、言ってから慌てて口もとを抑えてしまった。
が…。
「良かった?」
セーラーピンクは不思議そうな顔でボクを見上げ、ふっくらとした唇でボクの言葉を繰り返した。
「あ、いや、その…えっと、そうそう、楽しそうで良かったって言うか…楽しめて良かったって言うか…、えっと…」
「おい、また置いていくなんてひどいじゃないか、このイベントに誘ったのはオレなんだけど」
「ちょ、ちょ、やば、セーラーピンクレベル高いー、っと、あれ?トマトじゃん?」
何とか誤魔化そうと言葉を探していたボクの言葉は後から来た、有名なアニメキャラ一志のコスをした高志とセーラーブルーのコスをした先程知り合ったミューちゃんに吹き飛ばされた。
って、え?
セーラーブルーがナイトさまにぐんぐん近付いていくものだから驚いた。
「結局、セーラーブルーにしたんだ」
噴水の囲いに立っていたナイトさまが可憐に降り立ち、セーラーブルーの肩をポンと叩いた。
「すっごく似合ってる、ミューにはセーラーピンクよりセーラーブルーの方が似合うね!」
落ち着いたイケボで笑顔を向けるナイトさまは、セーラーピンクとセーラーブルーの憧れのナイトさまでは無いがこのイケメン振りは相当のものだ。
しかし、こんなイケメンなのにトマトって名前なのか?
さっきから薄々思っていたが、和喰と言いミューと言いこれはレイヤーたちのあだ名なのか?
「ありがとう。トマトも相変わらずイケメンで…」
「ありがとう」
「本当可愛いセーラーブルー!私メロディよろしくね!」
ナイトさまと同じく
セーラーピンクの自己紹介でようやく名前の意味が分かった。
彼等はTwitterネームで紹介しあっていたのだ。
「メロディさん知ってます!いつもTwitterとインスタ見させてもらっています。アニメのセーラーピンクまんまですよね!そんな憧れのセーラーピンクにそんな言葉掛けられてめちゃ嬉しいです。こうして会えて本当に嬉しいです!そうそう、メロディさんの衣装どこで買いました?私が見た中で一番本物に近いから」
「ああ、これね、通販で買ったものを自分で裁縫して付け足したりしてるの」
「すごい、すごい、もっと聞かせてください」
三人はキャッキャッと楽しそうにコス話をし始めた。
「くー。いいなぁ。セーラーピンクとこんな風に近付けるならボクゥもコスして来たのになぁ」
隣でその光景を見ていた和喰がどこから取り出したのかまた新しいスナック菓子を食べながら言っていた。
「ほらぁ、見てみなよぉ、他のレイヤーたちも彼女達三人のコス見てるよぉ」
和喰が言うように知らぬ間に、他のレイヤーさんたちやカメラマンや一般の人達が集まり始めていた。
「やっぱり完成度の高いコスは注目浴びるねぇ」
みんなの視線を集めているセーラーピンクはボクの家に来た時より断然キラキラしていた。
そんなセーラーピンクを見ていて少し悲しくなりながら、決意を新たにした。
ボクも早く完璧なナイトさまのコスがしたい。
「あの…オレの存在って?」
一志に扮した高志の呟きが寂しくただよっていた。




