ナイトさまとの対面
「どうしてエリのお兄さんがこんなとこに来てるのですか?」
セーラーピンクのコスをした心音ちゃんがカラコンが落ちてしまうのでは無いかと思うぐらいに目を大きくして、ボクを見上げた。
やはり、さっきの写真撮影の時には気付かれていなかったんだ。
ボクってどんだけ存在感無いのだろう?
……いや、今はそんな小さな打撃よりも、この胸の高鳴りの方が始末が悪かった。
やばい…。
こんな間近で見詰められると可愛すぎてどうしていいか分からなくなる。
キメの整った白い肌。ぷくっとした頬。
小さな鼻の下の艶やかなピンクの唇。
どれをとっても可愛すぎて…。
自分の心音が聞こえてしまうのでは無いかと思うぐらいドキドキしてしまった。
「あ…えっと…その…」
「キミ、本当にセーラーピンクの知り合いだったんだぁ」
和喰が食べ終わったスナック菓子の袋を先程と同じようにキレイに畳みまたしてもデニムのポケットにしまった。
一体あのポケットの中にはどれだけの菓子袋が入っているのだろうか?
「ボクゥ、彼の友人の和喰と言いまぅー、これ名刺ですぅ」
おいおい、いつから友人になったんだよ。
そんな心の突込みなど、聞こえる訳無く和喰はぐいぐいとセーラーピンクに言い寄ってく。
「よくイベント会場で見かけてましたぁ。あまりにも可愛すぎて話す事できずに今日ようやく近付けて嬉しいですぅ」
「あ…、ありがとう。あ、あなたさまもコスをやられてるのですね!」
「はい。その名刺の写真ボクゥですぅ」
名刺に写っているのは今目の前にいるこのデブくんとは全く別人のイケメンのゲームキャラが写っているのにも関わらずどや顔で名刺を渡した。
「これがあなたさまなのですか?メイクと加工技術のレベルが違いますね!」
「…」
プッ。
セーラーピンクの天然な返答に思わず笑ってしまった。
和喰と言えば悪意の全く無いセーラーピンクの言葉に自信満々だった態度に少しぐらつきが見えた。
さすが、セーラーピンク、武器を使わなくとも相手にダメージを与えている。
「セーラーピンク、彼等はご友人かい?」
耳にすっと入ってくるイケメンボイスが現実に戻した。
そうだ。
ボクがここに来た理由。
それは、セーラーピンクの憧れのナイトさまと対面する事だった。
深く被ったシルクハットを指で持ち上げるとオペラグラスをしていても分かるほど整った顔の片鱗が見える。
初めから勝つ気なんて全く無かったが、まさかこれほどイケメンオーラが溢れているとは…。
完敗だ…。
「はい。友人のお兄様とそのお友達みたいです!」
「そうか。私はセーラーピンクを守る愛の戦士ナイトだ。よろしく」
パッとマントを翻してナイトさまになりきって右手を胸に宛てぺこりと頭を下げてきた。
既に気持ちが折れていたボクなのに、更に自滅していく事を知りながら、セーラーピンクに恐る恐る言葉を発した。
「…か、彼が、前に話してた憧れのナイトさま?」
自ら死刑宣告を聞きに行くなど、自分の事ながら到底理解できない行為ではあったが、聞かずにはいられなかった。
彼を知り己を知れば百戦殆からず。
とは思ってはいないが、まだ僅かな希望があるのなら、相手を知らねばならない。
「あ、うん、彼の紹介するね」
ごくんと唾を呑みこみセーラーピンクの言葉を待つ。
「彼はね、私の…」
私の…何だ?憧れの人か?それとも実はもう彼氏なのか?
「私のコスプレ仲間だよ!」
「へ?」
思いもよらない言葉に茫然としてしまった。
「コスプレ仲間?憧れのナイトさまでは無く?」
聞き間違いだったでは?ともう一度確認してみる。
「え?やだ違うよ。憧れのナイトさま相手だったらこんな風に話せないよぉー」
セーラーピンクはそう言うとキャハと笑った。




