対面
「どうしたんだ、嶺二?」
キャラの決めポーズのまま静止していた高志は、いつまでも押されないシャッターに苛立ちを感じたらしい。
強めの口調で問い掛け、ボクの様子を伺いに来た。
ボクは…ボクの目は…数メートル先にある噴水の前でほほ笑みあっている二人の姿に引きつけられてしまった。
「おい、どうしたんだよ?」
「グフフ、あれはさっきのレベルの高いセーラーピンクとコスファンの中でも人気の高いナイトさまのレイヤーだね、やっぱり人気のある二人は一緒にいると絵になるね、グフフ」
高志の言葉は気持ちの悪い笑い方で話してくる男の声でかき消された。
先程会場で会った小太りのカメラマン兼自称レイヤーの和喰が知らぬ間にボクの隣にいたのだ。
スナック菓子を勢いよく開けるとポリポリと音を立てて食べ始める。
まだ食うのか?と突込みを入れたかったが、そんな事よりも…。
ボクはセーラーピンクとナイトさまの二人の事が気になって気になって…。
「ちょっと、行ってくる…」
高志にそれだけ言いボクは歩を進めた。
まるで、アニメ世界に入ったかのように様々なキャラたちに扮しているレイヤーさんたちの間をくぐり抜け噴水に近付いて行く。
歩きながら、行ってどうするんだ?と思いがよぎる。
確かに、セーラーピンクが声優の黒崎愛音でそして更に妹の友達で、普通に何度か話した事はある。
だが、セーラーピンクにコスしている彼女とは話した事が無い。
そもそも、自分がレイヤーをしていると言う事を身近な人に知られても平気なのか?
確かに、さっき会場で彼女の写真を何枚も撮ったが、彼女はボクに気付いていたのだろうか?
何のコスもしてないから気付かれたに違いないと思ってはいたが、もしかしたら気付いていないかもしれない。
そのボクが急にあの二人の間に入って行ったら怪訝に思われないか?
何てそんな事ばかり思っていたら、噴水に近付いてきたのに、なかなかたどり着けなくなる。
「いやー、あの二人、本当にお似合いだよねぇ」
うん。
「だいたいあの二人は前からの知り合いなんだろうし、セーラーピンクのあの幸せそうな表情見てたら、邪魔なんて到底できないよねぇ」
うん、…って。
「和喰何でついて来てんだよ!」
指に着いたスナック菓子のカケラを舐めながら、ニヤっと笑った。
「だって、こんな楽しそうな場面逃すなんてできないよぉ。キミってセーラーピンクの知り合いなのぉ?」
「う…う、ん」
「マジでか?じゃ、ボクゥの事も紹介してよぉ」
「え?」
「そのぐらいいいでしょう?」
何言ってんだ、コイツ?こんな奴を彼女に…。
ん?でも、話すきっかけにはなるんじゃないか!
コイツを利用して、あの二人の間に入っていけば…。
邪推な考えとは分かっていたが今のボクにはその考えしか思い浮かばず…。
「分かった、紹介するよ」
「本当?」
彼はボクの言葉を聞くと嬉しそうにグフフと笑っていた。
噴水の周りには二人の他にも何人かのレイヤーさんや、レイヤーさんに写真をねだる一般の人たちがいた。
セーラーピンクはナイトさまに夢中みたいでボクが近付いて来た事に気付いていないようだった。
ふぅーと大きく息を吸って肩を揺らし、勇気を出して声を掛けようとした。
「…、…、えっと」
あれ?何て呼べばいいんだ?
本名?それともキャラ名?
「セーラーピンクぅ」
迷ってるボクの変わりに和喰が先に彼女を呼んだ。
自分が呼ばれた事に気付いたセーラーピンクはきょろきょろと辺りを見回し、ボクたちに視線を向けた。
「あ、と、えっと…」
いざ気付かれてしまうとやはり何も言えなくなってしまう。
しどろもどろのボクの目を彼女はじっと見詰め、
「え?え?え?えーーーーー、エリのお兄さん?」
小さく叫んだ。




