撮影
「イヤ、ボクの話なんて面白くも何ともないよ。それより…」
腰を上げお尻に着いたゴミを振り落とした。
時間が経つにつれてレイヤー達の人数も増えてきた。
「今日はそのナイトさまは来てないの?」
ボクの問いにセーラーブルーは少し顔を赤らめて俯き言いづらそうに口を開いた。
「……。多分…来てる…昨日ツブやいてたから…」
あ。
その曖昧な表情を見て何となく気付いてしまった。
彼女が自分と同じ事をしているのでは無いかと言うこと。
彼女もボクみたいに、Twitterでエゴサーチして相手の行動を読んでいるのでは無いかと…。
「そっか、会えるといいね」
ボクは何も気付かない風を装うと、その心中を察してかどうか、『ふふふ』と笑い立ち上がった。
「うん!でも、もしかしたら会えるかもって思うだけで胸が苦しくてコスプレどころじゃなくなるから考えないようにしてる!」
そう言って笑うセーラーブルーはただの恋する女のコの表情だった。
そんな彼女の笑顔に、誰かが誰かを好きになるってやっぱりいいな、なんて思っていたら。
「おーい、嶺二、何してんだよ?」
聞き慣れた声が自分を呼んでいる事に気付いた。
「あ…高志」
目の前にいたのは、朝一緒に会場に来た時とは全く別人になっている高志がいた。
オレンジの髪をツンツンに上げて、髪と同じ色に眉毛を塗ったその下の目は金色に近いオレンジの瞳、鼻を高く見せるためなのか筋にくっきりと線を入れ、真っ黒なのに死装束のような服を身に纏い、太めの長剣を背負ってる姿に言葉を失ってしまった。
これはある少年誌で連載されアニメ化も映画化もされた死の世界と現実世界を行来する主人公『一志』のコスだろう。
「あ、高志じゃねーよ、どこにいるんだよ!ずっと探し回ったんだぞ。…ってセーラーブルーじゃん!」
たらたらと文句を言いたかったのだろうが、彼の興味はボクの隣のセーラーブルー移ったようだ。
「すげー、セーラーブルー。めちゃめちゃかわいいー!」
「え?え?本当ですか?ありがとうございます。えっと、そのあなたのそのキャラもすごく似合っててかっこいいです!」
高志に誉められたのが嬉しかったのだろうセーラーブルーは声を高らかにして高志のコスを誉めるものだから、高志なんて鼻の下伸ばして喜んでしまった。
「イヤー、参ったなー、本当に可愛いー、よく似合ってる。記念に写真とろうよー、おい、嶺二写真撮ってくれよ」
はいはい、どうせボクは写真係りですから。
でも…。
ボクも一緒に写真撮りたかったな。
なんて思ってセーラーブルーを見ると、その気持ちを察してくれたのか、
『後で一緒に撮りましょう』
と、口を動かしてくれた。
今日初めて会ったばかりの子だけど、気さくで優しい子だなと思った。
「ほーい、撮るよ、ほらポーズポーズ」
ボクの言葉に二人はキャラになりきってポーズを取り始めた。
「ハイ、ポーズ」
木蔭を背景にシャッターを切ろうとした瞬間、フレームの端に写った小さな二人の姿。
え?
カメラを持つ手が震えている。
「おい、嶺二、早くしろよ」
高志の声が遠くに聞こえる。
ボクは、フレームの中にいる二人の姿に目を奪われて動けなくなってしまった。
木蔭のずっと先にいたのは…。
ボクが会いたかったセーラーピンクと、そして…セーラーピンクが会いたがっていたナイトさまの姿だった。
二人は楽しそうに何かを話して笑いあっていた。




