一枚の写真
「去年もこの池袋で『セーラーピンク』のイベントしててさらに去年はセーラーピンク10周年で今年よりも盛大にやってたんです。で、その時もこのコスプレイベントのラブスタがやってて、で、そこで出逢ったの。運命のナイトさまに!」
へ?ナイトさま?彼女もナイトさまに憧れてレイヤーに?
彼女の隣に座ってたくさんのレイヤーさん達のおかげで色鮮やかになった目前の景色を見ながら話を聞いていた。
セーラーブルーのコスをしているミューと名乗る女の子は嬉しそうに自分がレイヤーになったいきさつを話している。
4月とは言え日射しがかなり強く、木陰のベンチに座りさきほど自販機で購入したペットボトルを一口口に含み言葉を続けた。
「展示会では可愛いくてかっこいいパネルとかたくさんあったんだけど、そのほとんどが撮影NGで、まぁ、仕方ないよねなんて思っても本心では、あー何か物足りないなって思いながら会場を出た瞬間、彼に逢ったの。それは正に運命的な出逢いだったの。…まぁ、あっちにしてみればただたまたまそこにいただけの事だったんだろうけど、私にとっては本当に本当に大切な出逢いだと思ってる」
一瞬でも時が違っていたら出会う事は出来なかった。
人と人との出逢いはどんな出逢いだとしてもそれは運命なんだと思う。
ボクもあの時セーラーピンクと出逢っていなければ今日ここにはいなかった。
「本当ビックリしたの。展示会で見たままのナイトさまが目の前にいたから。本当にアニメの中からそのまま出てきたようなナイトさまがそこにいたの。時間が止まるってああ言う時の感覚を言うのね。どうしよう?今何か話さなければ彼はどこかに行ってしまう…でも、何て声を掛ければいいの?こんなイベント始めてだから、写真断られたらどうしよう?そんな事ばかり思って躊躇してたら、一緒に来ていた友達が背中を押してくれたの」
-------そして、私は彼に声を掛けた。
『一緒に写真を撮ってもらってもいいですか?』
と言う私に彼は優しい笑顔で応えてくれた。
「でも、その時の写真が本当にひどすぎて」
クスクスと笑って小さなポーチからスマホを取り出してタッチ操作をしてデータを見せてくれた。
「見てこのブスい顔。表情筋死んでるし。大きい顔は仕方ないとしてナイトさまのモデルのように小さい顔と比べると本当にあり得ないぐらいのブス…でも、この写真見ると思うの。人間って本当に好きなモノを前にすると自分の本当の姿が表れるんだなって。だからこの写真は私にとって大切な一枚なの」
「確かに…」
「ひどい、言葉に出されるとさすがに凹むわ」
「いや、ごめん、そう言う意味じゃなくて」
その写真を見ると分かる。
ぎこちない彼女の笑顔から伝わってくる彼女の気持ちが。
彼女がどれだけこの時嬉しかったのかが伝わってくる一枚だった。
「まぁ、このブス写真は誰にも送らないから。大切にしまっておく。彼と出逢ってもう一年になるけど、あの時の記憶は全然色褪せないの。これが私がレイヤーを目指したきっかけだよ、あなたは?あなたは何でレイヤーになりたいの?」




