セーラーブルー
「キミは今日初参加なのかな?」
食べ終わったポテチの袋を見た目に反してキレイに畳んでからゴミ箱を探しているのだろう、キョロキョロと辺りを見回し諦めて細かい欠片をパッパッと振り払ってからデニムのポケットに入れた。
思わぬとこで、見た目が太っちょレイヤー(今日はカメラマンで参加)に声を掛けられタジタジしているボクはこれ以上彼の側にいたくなくて、『高志、早く来てくれよぉ』と心の中で思いながら、少しづつ彼から離れて行った。
「ボクゥには分かるよ。キミもあれだろう?可愛いレイヤー目当てでカメラマンになったんだろう?分かるよ分かる。自分の好きなアニメキャラに扮した可愛いレイヤーさんに堂々と写真をお願いする事ができる格別のイベントだもんねぇ。あわよくば写真転送するからって連絡先もゲットできるもんねぇ」
ち、違うそんなんじゃ…。
無い、とは言えなかった。
だって、結局ボクのやろうとしている事は彼の言う通りの気がして。
悔しいけど反論できないでいた。
ボクは、ただ…。
黒崎愛音のセーラーピンクが撮りたいだが、それって…この太っちょレイヤーの言ってる事と変わらない気がして…。
「大丈夫、大丈夫。そんな人たくさんいるからぁ。キミは自信持って撮影すれば平気だよぉー」
自信持って撮影って…。
ポンポンと叩かれた肩を振り払う事も出来ず、ボクはただ黙ったまま今日持ってきた一眼レフと目の前を通り過ぎるレイヤーさんを交互に見ていた。
すると、一人のレイヤーさんと目が合った。
青いセーラー服を着た彼女はセーラーピンクの片腕とも称されるセーラーブルーではないか。
肩までの青いサラサラのウィッグの上に彼女のトレードマークでもある黄色の星形のバレッタをつけていた。
セーラーピンク同様、下着が見えてしまうのでは無いかと思うほどのミニミニスカートを履いた彼女はこちらに気付くと、ゆっくりとこちらに近付いてきた。
「あーーー、和喰ーーーー、あんたまた来てたの?ヒマねー!」
どうやら彼女はこの太っちょレイヤーの知り合いらしい。
「あ、ミューだ!お前こそヒマだなー、毎回毎回似合わないセーラーブルーの格好で…」
「ちょ、何よ、似合わないって!あんたみたいなキモヲタにそんな事言われたく無いんだけどぉー」
「いや、似合わないと言うか全然セーラーブルーになりきれてない、ね、キミもそう思うだろう?さっきのセーラーピンクと比べて出来が悪すぎるだろう?」
急に自分に振られたモノだから、何て答えていいのか分からない。
だが、そう言われたからには頭から足元まで彼女を見てみる。
いや、頑張っていると思う。
確かにセーラーピンクと比べると見劣りはする気がするが…それは、贔屓目があるからであって、彼女は彼女なりにセーラーブルーになっている。
セーラーピンクに先に会っていなかったら、彼女のセーラーブルーはより本物に近く見えてたはずだ。
「セーラーブルーに見えるよ」
そうボクが答えると、彼女のつんとしていた唇がほころぶのが分かる。
「わぁーーー、ありがとうございます!」
ほら、見てみなさいと言うように彼女は太っちょレイヤーに、ベッと赤い舌を見せた。




