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小太りなレイヤー

「あのセーラーピンク可愛いよねぇ」


ひたすらセーラーピンクにシャッターを押し続けて、セーラーピンクが違うところに移動してからも、現実に戻ってこれずにその場に立ち尽くしていたボクは小太りヘアバン、リュックにシャツインのオタク完璧フォルムをした男がすぐ隣に立っている事に気付いていなかった。


へ?今ボクに話してるのかな?

ボクの知っている人だっけ?

じっとその姿を見ても思い出せない。

ボクの知り合いでない事は確かだ。

だが、周りを見回してみても他に人はいない、やはりボクに話し掛けているのだろうか?


男は持っているポテチの袋に手を突っ込みながら、言葉を続けた。


「あのセーラーピンクはそこいらのレイヤーと違って本物にそぐわない完璧さだよねぇ…アニメ同様あんな幼い顔してるのにあのミニスカートから出ている太ももとかも妙にエロッちいしぃ、それにあの爆乳もぉ…」


「ゴホゴホ…」


初めは無視し続けようと思っていたのだが、彼の言葉があまりにも生々しいものだったので、思わず咳払いで止めてしまった。


「キミ初めて見る顔だねぇ。その割にはいいカメラご持参でぇ…」


少しイヤミったらしい言葉も気にくわなかった。

が、それ以上にセーラーピンクに対するイヤらしい言葉が許せなかった。


「ボクはそんな風に彼女の事を見てない」


「あれ?怒ってるのぉ?でも、ボクゥは事実を言っただけだよ。彼女のコスは完璧だと誉めたつもりなんだけどなー」


指を舐めながら言う彼の言葉は不快しか与えなかった。

こんな時は何も言わず立ち去るべきだ。

こんな奴相手にしないのに限る。


「これ、ボクゥの名刺。今日はカメラマンだけど、普段はボクゥもコスしてるんでシクヨロ!」


少しづつ後退して行ったボクの前に、太い腕をドンと突き出した。

その手に握られていたのは黒塗りに金箔のかかった名刺だった。

ブンブンと、早く受け取れと言う仕草をされたので、渋々受け取るとそこに写っていたのは…。


「誰?」


有名なRPGの主役のコスをしたイケメンが写っていた。

CG加工が施されていて、背景はゲーム世界そのものだった。


「それボクゥだよ、ね、ね、かっこいいでしょう?」


おいおい嘘だろう?

これは詐欺プリとか言うレベルじゃないぜ。

小顔に大きなブルーの瞳。

シュっとしたスタイルで右手に剣を握り締めているこの写真と目の前のこの男とではまるで別人だ。


「あ、詐欺だとか思ってるんでしょう?」


男はフンフンと鼻を鳴らしてまたポテチを口に放り込んだ。


「とにかくその写真は正真正銘ボクゥだから。あ、ボク、和喰(ワク)ね、シクヨロ!」


確かに、レイヤーは結構小太りの人間がいることを学んだが、ここまで太っている人間がこんなにカッコ良くコスができるものなのだろうか?

これは完全な加工だとは分かってはいても驚きが隠せなかった。


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