友人と言うのはたまにうざく感じるものである。
「で、結局どうすんの?」
翌日の夕方、ボクの部屋に遊びに来ていた高志が昨日届いたナイトさまの衣装を物色しながら、聞いてきた。
「まさか、お前が本当にナイトさまの衣装買うなんて思って無かったからびっくりだよ!」
ボクにとっては先輩レイヤーの高志は、念入りに衣装をチェックしてた。
「まぁまぁ、普通の業者から買えて良かったな。これなら何とかナイトさまできるんじゃないのか?」
「裾あげしないとだけどな…、それと、メイク…」
「だな」
ガハハと豪快に笑いながら、ポテチの袋を開けた。
「高志は今回何のコスするの?」
「オレか?オレはだな」
待ってましたと言わんばかりに立ち上がり、大げさに咳払いをしてから、ティリリリンと発表のテーマを口で奏でた。
「今回は…、何と何と。あの有名バスケアニメで大人気のイケメンキャラをやろうと思う!」
イケメンって…?
大きく出たなー。
「おおー…って、そのバスケアニメはイケメンたくさん出るけど、どのキャラをやるんだ?」
「よくぞ聞いてくれました。そのアニメの中でも断トツイケメンでアニメの中でもタレントもしている皇優太だ!」
「ほえ?」
イヤイヤ、無理だろう?
あのアニメに出てくるイケメン達はみんなただでさえレベルが高いのに、その中の皇優太なんて、断然トップレベルのイケメンじゃないか!
「イヤー、無理だろう!」
「おいおい、そんな即答するなよ、やってみなくちゃ分からないだろう?と言う訳で今日はこんな雑誌を持ってきた」
と言って鞄から、派手な男性の写った表紙の雑誌を取り出した。
「何だ?それ?」
「コスプレ専門雑誌。これを読んで勉強する事にした!」
へぇー、こんなのも売ってるんだー。
みんなすごいな…。
何人かのレベルの高いモデルが、コスプレメイクのやり方やカラコンの種類などが載っていた。
だけど…。
「これを熟知したところでお前が皇優太になれるとは思えないんだけど…」
「最初からそう決めつけんなよ、やってみなくちゃ分からないだろう。お前にそんな事言われて何か俄然やる気が出てきた!もう帰る。帰って加工の練習してくる」
「加工の練習って…」
「お前さカメラマンとして参加するのか、ナイトさまをやるのか早く決めとけ。もし、ナイトさまのコスプレやるならお前も当日までに盛れるようにしとけよ」
そう言って部屋の扉を思い切り開ける面のだから…。
「いったーい」
制服を着た女の子が、甲高いアニメ声を上げて頭を抑えてうずくまっていた。
腰までのふわふわの栗色の髪を編み込みにしている、その子は…。
「心音ちゃん?」
頭をさすりながらボクを見上げた。
ぐすっと眼鏡の奥の瞳が潤んでいた。
「兄貴のバカ!心音大丈夫?」
妹のエリも腰を屈めて心音ちゃんの頭をさすった。
「ごめん、ごめん、大丈夫?おい、高志気を付けろよな!」
突然の事で何が何だか分からない高志はしばらくボクと彼女を交互に見ていたが…。
「え?今の声って…黒崎愛音の声?」
「!」
彼女がもしかしたら今をトキメクアイドル声優の黒崎愛音では無いかと思っていたが、いや、絶対にそうだろうと思っていたものの、それを聞いたらこの瞬間の時間が壊れてしまうのでは無いかと思い伏せていた言葉を高志は何の迷いも無く言うから、ボクは言葉を失ってしまった。
心音ちゃんは黒崎愛音と言う名前にびくっと肩を震わせて、今にも涙がこぼれそうな瞳をさらに見開かせた。
「黒崎愛音って、お前の大好きな声優じゃねーか、何でお前の家に黒崎愛音がいるんだよ?」
最悪だ。
彼女が本当に黒崎愛音だっとしても、ボクが彼女のファンである事は直接言いたかった。
これ以上口を開くな!
「おい、いてーよ、おい、どうしたんだよ?おい、何で黒崎愛音がお前の家にいんだよ?」
ボクはこっちを見上げている彼女の視線を感じながら、まだ叫んでいる高志を強引に引っ張り階段を降りて行った。




