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紅と茜のサマーウォーズ  作者: カヤ


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21/23

3年目の夏7

私は家に帰ると、4年生の頃に作った家出マニュアルを机から引っ張り出した。表紙をそっとなでる。


ここには4年生の頃、初めて放課後自由に走り回っていた自分がいる。あの頃はハンバーガー屋さんは眺めるだけ。コンビニはさっと入って買物だけして急いで外に出てたっけ。


それをもとに一週間の家出の計画を立てる。


4人とも、親には言わない。友だちには協力してもらう。


翔くんも遥ちゃんも反対した。


「誰かのうちに泊まるならともかく、秘密基地って言っても、外じゃない。不審者だっているし、雨だって降るかもしれない」

「誰かのおうちに泊まったらただのお泊まりだもん」

「確かに話を聞いてるとひどいけど、紅が巻き込まれることないでしょ!」

「私だったかもしれないんだもの」

「紅……」

「たまたまうちは解決したけど」

「たまたまじゃない!紅の努力だよ」

「へへっ、ありがと」

「紅のこと能天気とか思ってるヤツら、みんなけっとばしてやりたい」

「のうてんきだもの」

「みつを風に言ってもダメだからね」

「反対されてもやる」


放課後、教室に残って話していた遥ちゃんと私を、窓際の机に座って見ながら翔くんが言った。


「紅はこうなったらダメだ。1人で突っ走られるくらいなら、俺は協力する」

「翔くん!」

「けどな、俺から見てダメだと思ったらそこでストップだ。いいな」

「うん!」

「仕方ないわね。一緒には泊まれないけど、日中は一緒よ」

「ありがと!」


茜ちゃんの学校では、ハルトくんもせっちゃんも協力を約束してくれた。そもそも一学期の蒼と碧をとても心配していたのだ。


決行はおばあさまの家に行く一週間前。その2日前に、蒼と碧が、予定変更を勝ち取った。


「俺たち、4人で先におばあさまの家に行くことにしたから」

「いや、子どもだけでか」

「そう、もう6年生だしな。お父さまたちは計画通り来たらいい」

「では切符の予約を」

「券売機で買うんだ。これも経験だろ?予約した切符はキャンセルお願いします」

「まあ、いいが。では電話を」

「それは紅と茜がお父さまに頼むって。俺たちがちゃんとお礼言うから」

「そうか」

「だからお母さまも心おきなく仕事しなよ」

「ええ、でも……」

「いいから」


こんな感じだ。うちもそう言って一週間をもぎ取った。交渉はより信頼のおける茜ちゃんに担当してもらった。


初日は公園集合だ。


「「行ってきます!」」


茜ちゃんと2人で走り出した。家から5駅、私はいつもの小学校の道のり。夏休みで人の少ない電車の座席に並んで座る。今日は1日公園で遊ぶのだ。駅についた後は、それぞれ買い物をし、公園前で待ち合わせる。


公園の前の交差点、8人全員そろった。


「では、今日は」

「何で紅が仕切るんだ」


碧が突っ込む。ナイスだ。


「今日はおむすびは確保してきたね!では、出発!」


小学生だって六年生になったらもう虫取りなんてしない子が多い。だからこそ最後に思い切ってやるのだ。もちろん、昼だからカブトムシなんかいないけれど、この公園は蝶やトンボやバッタはたくさんいるのだ。せっちゃんや遥ちゃんはキャーキャー言ってたけど、逃がす方担当だ。せっかくだから写真を撮って、公園の虫制覇!


お昼は子どもらしくおむすびを食べて、公園のアスレチックで遊び、シートをひろげてお昼寝する。


何でハルトくんが一番楽しそうなんだろうなどと思いつつ、あっという間に夕方になった。


「では、毎日同じ人が買いに来ると不審に思われるので、今日はせっちゃんとハルトくんお願いします!」

「任せておいて!」

「張り切るな!」


夕ご飯のお弁当と、明日の朝ごはんをお願いする。買い物が終わると、今日は解散だ。夕闇に紛れて、秘密基地に忍び込む。覆いをつけて、LEDランタンをつける。外から明かりが見えないよう、何度も実験したから大丈夫だ。


こっそりご飯を食べてもすることがない。トランプも持ってきたけど、さすがに今日は疲れた。銀色のマットを引いて、寝袋にくるまって、おしゃべりをしようとして、あっという間に寝てしまった。1日目は終わった。



その頃、お母さまはどうしていたか。


「茜と紅、なんかおかしかったわ」


1日悩んだ結果、その日の夜、帰ってきたお父さまに相談していた。


「そうか、気づかなかったけどな」

「紅よ。紅がいつもと違ったの。ねえ、お母さまに電話をかけてくれない?」

「そうだな」


実家に電話をかける。


「二週間ぶりかな、え、紅たちが来るのが待ちきれない?早く来週にならないかなって?用事?いや、あの、よろしくって電話で……。うん、無理しないよ、おふくろもな。じゃあ」

「晴信さん……」

「なんてことだ。4人とも来ていない」

「事故とか!警察に!」

「まあ待って。4人いっぺんにってことはないだろう。事故のニュースもないし」

「でも!すみれ!すみれは?」

「ちょっと待って」


お父さまは考えた。


「これは計画的な犯行……スピーチであんなことがあったのに4人ともお利口すぎた……犯人は何かを残す……残すとすれば……紅だ!紅の部屋のようすをみよう」

「晴信さん、娘の部屋に勝手に……」

「そんな場合じゃないだろう」


2人で紅の部屋に急いだ。片付いている。当たり前だ。案外私はマメなのだ。


「机……」

「勝手に開けるの?」

「開ける」


そうだよ、机の2番目の引き出しだよ。


「あった!これ……」

「「茜と紅のサマーウォーズ?4人で家族を取り戻せ!」」


ページをめくると……。


「お母さま、お父さまへ。私たちは最後の賭けにでます。すみれおばさまが家出に気づいたら蒼と碧の勝ち。気づかなかったら負け。何を言ってるんだ、紅は」

「こないだのスピーチから、藤堂の家はギクシャクしてるみたいだから」

「お母さまの事だから、すぐに気づくと思う。けど、三日目までは見守って。これは蒼と碧がすみれおばさまを勝ち取るための戦い。そんなこと言って、どこに泊まってるんだ……」

「翔くんよ!紅のお友だちの!」


その時お母さまに電話がかかってきた。


「はい、すみれ?蒼と碧?おばあさまの家に行っていない?すみれも気づいたのね。何で知ってるって?紅も茜もいないからよ。警察?まず落ち着いて。恭一さんは?いるのね。じゃあまず2人ともうちに来てちょうだい。4人で相談しましょう」

「藤堂も気づいたか」

「そうみたい。蒼と碧の勝ちね」

「とはいえ、どうするか」

「見守ってって、そんな訳にはいかないわ!まずは翔くんの家に連絡してみる」

「そうしよう」


蒼、碧、よかったね。1日目でばれてるよ。


「ちょっと待って!もう一冊あるわ」

「なんだと!これは少しクシャクシャだな。家出マニュアル?これは……4年生の頃……か」

「泊まるところ、とうそうけいろ、朝ごはんのかくほ、トイレ、おふろはどうするか?何日で気づいてくれるかな、気がつかないかもしれないなって……書いてある……」

「私たちがまだ、子どもたちと向き合えていなかった頃だ……紅」


2人は立ちつくした。明るいはずの紅が。私たちをつないだ紅が。幼い子どもの、恐ろしいほどの孤独を。自分たちの罪の深さを。初めて自覚したのだった。



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