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紅と茜のサマーウォーズ  作者: カヤ


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20/23

3年目の夏6

月曜日、帰ってきた茜ちゃんに聞くと、2人は恐ろしいほどいつもどおりだったそうだ。


「でもね、ダメなの。蒼は氷のような目をしていた。碧はあきらめきった目をしていたの。すみれおばさま、何を言ってしまったんだろう」

「茜ちゃん、話は聞けなかったの?」

「そんな雰囲気じゃなくて」

「木曜日、待ち伏せできるかな」

「紅ちゃん?」

「ちゃんと話さなきゃ。共犯者だもの」

「隠ぺい工作のへたくそな、ね」

「うん」


笑おうとした私たちだが、笑えなかった。


じりじりして木曜日を待つと、私は茜ちゃんの学校まで急いで出かけて行った。校門で待っていると、茜ちゃんと双子だってわかっている知り合いに何人も声をかけられる。挨拶をしていると、来た!


「蒼、碧」

「紅、どうした」


蒼が少し驚いたように言った。


「今日の予定は?」

「塾だけど」

「今日は塾はダメ」

「は?なんでだ?」

「今日は私と一緒に秘密基地に行くんだよ」

「いや、でも、もう」

「いいから!あ、茜ちゃん!」


茜ちゃんが走ってくる。


「お前、今日児童会があったろ」

「さぼってきた」

「は?」

「見つかるとまずいから、行こう」

「え、ちょ」


碧はぼんやりしているので、2人を強引に電車に乗せて、私の学校の駅に降りた。


「よし、食料の買いだしだ。茜ちゃん、私蒼とハンバーガー屋さんに行くから」

「わかった!私碧とコンビニに」

「公園に集合ね!」

「うん!」


そうして前からやってみたかったハンバーガーのセットを持ちかえりにして買い、公園の秘密基地に集まった。もちろん、茜ちゃんはおやつ担当だ。


秘密基地で虫よけして、虫よけのにおいの漂う中、用意してきていたシートに座りこみ、食べ物を並べた。


「さあ、いただきましょう。ずっとやってみたかったんだ、ハンバーガーの持ち帰り」


あっけにとられていた蒼と碧も、おそるおそるポテトに手を伸ばす。成長期の私たちはいつだって腹ペコだ。そのうち碧が泣きだした。泣きだしたけど食べるのをやめない。


「悲しい時でもおいしいな」

「ここのポテト、独特なんだよね。ほら、鼻が出てる、拭いて」

「紅もほら」

「え?」

「紅も鼻が出てる」


お互いに紙ナプキンを押し付け合った。茜ちゃんだってそうだ。蒼だって。


むしゃむしゃ、ぐすぐす、ガサガサ言わせながら私たちはハンバーガーもおやつも食べつくしてやった。残るは飲み物だけ。何をしに来たんだっけ。あ。


蒼が優しい目をして言った。


「紅、何しに来たんだっけって顔してる」

「ばれた?」

「わかりやすいから。俺たちを慰めに来たんだろ?」

「ん?いやー。ちがくて。ほら、共犯者として情報は共有したく思いまして」


私はしどろもどろになった。まず会わなくちゃって思って。その先を考えてなかった。


「さては何にも考えてなかったか」

「う、会えば何とかなるかと」

「茜?」

「会えば何とかなるかと」

「ふ、ははっ」


碧が笑った。天を仰いで、そして蒼の肩におでこを付けた。


「あーあ、なんだかどうでもよくなった」

「だな」


ん?


「あれからさ、俺たち結局言っちゃったんだよ、まあ、かまって欲しいってさ」

「それはそれでよかったんじゃないの」


茜ちゃんが首を傾げた。


「ダメだったんだよ。お母さま、わからなかったみたいだ」

「直接言っても?」

「うん。で、なんかお父さまと話して、今なるべく俺たちと過ごそうと努力してくれてる」

「やっぱりよかったんじゃ?」


茜ちゃんがますます首を傾げる。


「俺はダメ。もういいって思っちゃったし」

「俺もダメ。許せないんだ」


2人ともダメなのか。


「私わかる。去年の夏だって、すぐにお母さまを許せた訳じゃなかったもん。意地を張って、お母さまから謝らなかったら許さないって思った。口先だけじゃイヤだって」


茜ちゃん。そうだったよね。


「俺も。もういいって思おうとしても、胸がちりちりして」

「お母さまが歩み寄ろうとしてるの分かってても、傷つけばいいって思ってて。俺たちだって傷ついたんだから」


茜ちゃんがうんうんてうなずいている。蒼と碧はずいぶん顔色がよくなったような気がする。


「お母さまのこと、悪く言えてよかった」

「少しスッキリしたよ」


明るい声の2人に、茜ちゃんは言いにくそうに聞いた。


「でも、どうするの?これから」

「どうって」

「このままかな」


このまま、か。


「家出とか……」

「いえで?家出か!」

「家出すんのか!」

「いやいや、ちょっと言ってみただけだから」


私はポツリとつぶやいたが、あまりの食いつきのよさにあわてて意見をひるがえした。


「家出かー」

「このままここに泊まるか」

「いいな」


いやいや、寝心地悪いですよ。


「ご飯は毎日ハンバーガーでもいいな」

「おいしかったな」


いやいや、毎日は飽きますよ。それに毎日買いに行ってたら足がつきやすいし。


「足か、さすがに刑事物好きだな、紅は」

「アリバイは?」


この際翔くんやハルトくんを巻き込んで……


「あいつらか。協力してくれっかな」

「ハルトはいける。翔はまじめだからどうかな」


あとは……


「紅ちゃん、蒼、碧」

「「「あ」」」


茜ちゃん……調子に乗ってごめんなさい……


「やろうよ、本気で」

「「「え?」」」

「夏休みに。おばあさまのとこ行く前に。一週間」

「「「一週間も……」」」

「私たちの家出に気づいて探しに来てくれたら蒼と碧の勝ち。気が付かなかったら負け」

「「勝負か」」


蒼と碧が面白そうに言った。


「勝ったら、大事にしてもらえてるってこと。負けたら、恥ずかしくても何でも自分から甘えること」

「どっちにしろ、諦めるなってことか」

「諦めるにしても、もうひと頑張りしてみようよ」


茜ちゃん、すごいね!なら私も!


「私ね、お金ならあるよ」

「お金?俺もある」

「俺も。お前もそうだけど、モデルのお給料」

「わかってないな。みんなは銀行でしょ。カード勝手に使えるの?」

「……無理だ。親に言わないと。あと何に使うのって言われる……」

「ね」

「紅は?同じだろ?」

「あ、紅ちゃん……お小遣い……」

「そう、私はお小遣いを現金でもらっているのです。そして手元に置いてあるのさ!」

「だからハンバーガー買えたのか……」

「どのくらい?」

「んー。15万くらい」

「「「……」」」


どや。


「何で……」

「うん、ホントはやっぱり家がイヤで。いつか家出しようと思ってたんだ、4年生の頃」

「紅ちゃん……」

「だからお母さまから現金でお小遣いもらって、ためてたの。5年になってからは家出しようとは思わなくなったから、ちゃんと銀行にためてるよ。それを使おうよ」

「いいのか」

「いいよ」

「じゃ、計画を立てるか!」

「「「おー!」」」


6年生の夏休み。冒険が始まる。


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