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紅と茜のサマーウォーズ  作者: カヤ


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15/23

3年目の夏1

こうしてお父さまたちのお母さまを勝ち取る作戦は進んでいった。と言っても華原家はもう大丈夫。私と茜ちゃんががんばって2人に割り込まなければならないほどなのだから。


難航しているのは藤堂家だ。すみれおばさまは、モデルとしても小学生としても立派にこなしている蒼と碧を見て、かえって自分が必要とされているとは思えないのかもしれない。かといって何にも行動を起こさなければますますかまわれない。それは恭一おじさまも同じことで、仕事が充実しているおばさまに、いまさら家族の時間をとってもらおうとするのはとっても難しいのだった。


お母さまが強気に出たのはこないだの一回きり。


でも、なんでそもそも2人はうまくいかないんだろう。うまくいっていないのに、なんで側にいるんだろう。


「めずらしいね、紅ちゃんがため息なんて」

「遥ちゃん。うん。人間関係って難しいね」

「ぷはっ」

「あ、ハンカチハンカチ」


遥ちゃんは飲んでいた自動販売機のココアを少し吹き出してしまった。ちなみに値段は80円。区立図書館の休憩フロアの自販機にある。


5年生の冬になり、もう外に遊びに出るのはつらい。図書館には勉強できるところとは別に大きな休憩フロアがあって、自販機とベンチが置いてあり、暖房も入っているから私たちのたまり場になっていた。


といっても相変わらず自由になるのは木曜日だけ。週に一度、ここの自販機で飲み物を買うのがぜいたくな楽しみなのだった。ちなみに私が好きなのはホットのスポーツ飲料。のどに来る酸っぱさがたまらない。


「もうお母さまとはうまくいったんじゃないの」

「うん、私と茜ちゃんにとってはね。でも……」

「おばさま?」

「うん」

「紅ちゃんさあ、ちょっと過保護じゃない?普通、私たちが友だち関係に悩んで親に相談するものだよ。大人なんだから、自分でなんとかしなきゃ」

「でもさ、遥ちゃん、大人って意外と何にもできないんだよ」

「う、紅ちゃんのとこはなあ」

「一緒にご飯を食べたいってことさえ言えてないんだよ。かと思えばいくら断っても聞かなかったり」

「家族のやり直し中だものね。家族検定7級くらいかな?」

「7級か……微妙。それ、一番は何級?」

「1級でしょ」

「遠いな……」


茜ちゃんに家族検定の話をしたら笑っていた。こんな風に、違う話を持ち寄れるから違う学校に通うのも悪くないんだよ。


そうして藤堂家が健闘し、華原家が遠巻きな防御を続けている間に、私たちは6年生になった。


そして蒼と碧はすみれおばさまより大きくなってしまった。おばさまは前よりは気にかけてくれるようになったけれど、今度は自分たちは商品としてしか価値がないのかと悩むようになっていた。


「もうさ、言っちゃったら?もっと大事にしてくれって」

「そうできたらしてるさ。意地を張って遠回りしてモデルにもなったけど、あんまり変わらないんだ」

「そうかなあ、家族でご飯を食べること増えたでしょ?」

「うん。茜たちの話も減った。でもさ、怖いのはさ」


蒼はちょっと言うのをためらった。


「俺たちのこと、大事なのかって聞いてみてさ。もちろん大事よって言われることなんだ」


茜ちゃんがはっとしてうなずいた。


「わかる。わかるよ。本当に心がつながらなければ、何を言われたって嘘にしか思えないんだよ。大事って言われちゃったら、それが本当のことなのかわからなくて悩むだけなんだもの」

「茜……そうなんだ。大事よっていわれたら、俺たちのこと大事じゃないんだって認めることになりそうで」


それで茜ちゃん、去年お母さまに意地を張ってたのか。


碧は話に参加せず、なんだかぼんやり外を眺めている。


「碧?」

「ん、紅。いい子でもダメ、目立ってもダメ。じゃあ、あれしかないか……」


あれって何だ。茜ちゃんは知ってる?知らないよね。私たちは向かいあってはてなと言う顔をしてしまった。


「あれか、ついにか」

「蒼?」


2人は悲壮な顔をした。蒼、碧、どうしたの?


「これだけは避けたいと思ってたんだ」

「かっこ悪すぎるだろ」

「けどな、中学生になってやったらもっとかっこ悪いんだよ」


かっこ悪い?


「「俺たち、悪くなるから」」


はあ?私も茜ちゃんもぽかんとしていたと思う。


「悪くなるって……えと、殴ったり、とか?」


茜ちゃんも混乱してたと思う。


「人には迷惑をかけない」


蒼が宣言する。人に迷惑をかけないんじゃ、悪いとは言えないんじゃないの?


「モデルの仕事はする。契約だからな」

「けど、塾はさぼる。委員会も出ない。そうして、徹底的に親を呼びださせる」

「いや、それ委員会の人や塾の人に迷惑がかかるんじゃ……」

「迷惑がかかったらどうなんだよ」

「いや、さっき蒼が迷惑かけないって」

「迷惑をかけたくないって思ったからお母さまには通じなかったんだろ!」


碧が怒鳴った。蒼は冷静に言った。


「俺はそのことが迷惑をかけるとは思っていない。塾も学校も、生徒指導まで含めて仕事だ。委員会は委員長以外も仕事をすべきなんだ」

「俺たちがあいつらの迷惑にならないようにがんばったら、あいつらは俺たちの家族になんかしてくれんのか!」


あ……。


私たちは、お父さまに気を使って、お母さまに気を使って、愛されたいと、ただ認められたいと、たぶんそうやって暮らしてきたのだ。それは習慣になっていて、学校の先生にも、お手伝いさんにも、本当にわがままなことは言えるわけがなかった。一つでも崩したら、愛されるという塔は完成しないような気がして。


構われないことは自由だった。けれど自由だと思わなければやってこれなかったのだ。黙り込んだ私たちに、蒼は言った。


「茜と紅には迷惑をかけない。けど、止めないでくれ」


碧はまたぼんやりと外を見ている。茜ちゃんは、気まずそうに、でもこう聞いた。


「その、具体的な計画は立てているの」

「さあな、今はまだ。決意を固めただけだ」


蒼は硬い表情をしていた。だめだ、なんかだめだ、茜ちゃん!


「私たちも……」

「茜?」

「一緒にやる!」


ええ?そっち?

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