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紅と茜のサマーウォーズ  作者: カヤ


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14/23

2年目の夏6

「茜と紅はさ」


その日帰ろうとしたら、碧がそう言った。


「自分のお父さまには言えないクセに、うちのお父さまににはっきり言うのな」


確かに。お父さまには言えないことがいっぱいあるのに。何でかな。


「お父さまには嫌われたら怖いもの」


茜ちゃんがぽつりとそう言った。それだ!心を言葉にするのは難しい。茜ちゃんと蒼はそれがとても上手なのだ。


「まあな、責めてるんじゃないんだ。ただ、言えないお前らがもどかしくて」

「地味に仲よくなりつつあるから、心配しないで。どうしても言えないことは、蒼と碧に言ってもらうから」

「わかった。俺たちが言いにくいことはお前たちが俺たちのお父さまに言ってくれよ」

「いいよ」


こんなふうに恭一おじさまの奮闘は始まった。


「あー、すみれ」

「何、恭一さん」

「その、今度な」

「今度?何かあったかしら」

「いや、特にはないが……」

「そう?それより蒼と碧、こんなにモデルとして映えるとは思わなかったわー」

「そうか、俺たちの子だからな」

「そうね、忙しくなるわ!」

「あ、おい……」


ということでなかなか進まないのだった。告白の前に、デートからだ!おじさま!


いつもいつもおばさまは、望みもしないのにこちらに踏み込んでくる。どうやって避けようかと、そればかり考えていた。でも、こうやっておばさまを攻略しようと注目して見ると、おばさまは私たちにばかり構っているわけではないことがわかった。


おじさまが苦戦しているように、こちらから捕まえようとしても忙しくてするりと逃げてしまう。そして嬉しいことや気を抜きたい時に、お父さまに会いに来ている、ような気がする。


私たちは本当についでなのだ。


そんな日々の中、ある日すみれおばさまは、お父さまにじゃなくて私たちに言った。


「茜と紅もモデルをやらない?」


え?私は茜ちゃんとビックリして顔を見合わせた。


「蒼と碧、茜と紅、いとこだからどことなく似てるし、双子のモデルシリーズとしてキャッチーだと思うの」

「キャッチーって。でもおばさま、私、着れないって」

「もうポッチャリじゃないじゃない」

「え?」

「ポッチャリシリーズを立ちあげる前にやせちゃったから、イメージわかなくてね。ポッチャリも需要があると思うんだけど」


え、すみれおばさま本気でポッチャリ用作るつもりだったの?


「双子でも蒼と碧はクールとヤンチャ、茜と紅はしっかりとゆるふわの対比で、合う服も違うのよ、これを生かさない手はないわ」


ふーん。おばさま、さすがお父さまとは違う、よく見ている。そして前のように、いやな気持ちはしないのはなぜだろう。でも私はあまり興味はないな。茜ちゃんが代表して答えた。


「すみれおばさま、私たちは学校も忙しいし、遠慮します」


そうそう。


「そう」


おばさまは少し気落ちしたようだった。


「じゃ、仕方ないわ、これ」


なになに。お手紙だ。茜ちゃんが受け取って、二人で見た。


「茜、紅、協力してくれるよな?蒼、碧より」

「なんじゃそりゃあ」

「まあ、紅、その言葉遣い」


お母さまが眉をしかめた。だってこのセリフ、1回使ってみたかったんだもん。でもお母さま、蒼と碧が!


「仲良しだものね、4人は」


お母さまはニコニコしている。そうじゃなくて!


「お母さまはいいの?」

「んー。かわいい茜と紅は見たいわ」


毎日でも見ていいから!そういう事じゃないから!


「モデル事務所にってことじゃないのよ。kiraの専属のモデルとしてだから、そんなに仕事は多くないの。蒼と碧だって茜と同じ学校だけどこなしてるのよ」


茜ちゃんは悔しそうな顔をした。ちなみにkiraというのはおばさまのブランドだ。


「茜ちゃんは児童会だから、忙しいのよね?」


私は茜ちゃんをかばった。


「あら、蒼と碧も委員会にはしっかり参加してるわよ。それに紅はどうなの。特に何もしてないでしょ」


う、でも趣味の町歩きや公園遊びも忙しいし。そろそろマンガの季節だし。茜ちゃん、言ってやって!ビシッと!


「やります!」


ええー。負けず嫌いなんだから……。


それから私と茜ちゃんは、ニヤニヤする蒼と碧にひじ打ちを食らわせたりしたけれど、結局、kiraの双子たちとして、シーズンごとのポスターや雑誌の広告などに載ることになったのだった。


撮影にはお母さまも来る。社長の妹ということで、現場は興味シンシンだったけれど、大人になった双子はメイクの違いもあり、そっくりというほどでもなかった。


また忙しい現場の中、てきぱき動くすみれおばさまとおっとり私たちを見ているお母さまは違いすぎて、すぐに話題性を失った。


お父さまのことさえなければ、ギクシャクすることもない。おばさまもお母さまも、違う道をきちんと歩いているように見えたのだ。


撮影のあったある日、珍しくお父さまと恭一おじさまが連れだって迎えに来てくれた。まあ、お母さまを迎えに来たのだろうが。


そこにすみれおばさまがやって来て、


「せっかく全員そろったんだから8人でどこかでご飯を食べましょうよ」


とはしゃいだ声を上げた。


「「いや」」


お父さまとおじさまの声が重なる。


「ここの所忙しくて家族団らんが少なかったから、悪いけど」


お父さまが断った!


「まあ、晴信さん、私たちとだってそうは会えないじゃないの」

「すみれ、私たちも久しぶりに家族4人で食べに行こう。蒼と碧のために焼肉の店を予約したんだ」


焼肉!思わずついて行きそうになった。いてっ。ごめん、茜ちゃん。つい。


「焼肉なら人数が増えても」

「すみれさん、悪いな、うちもゆかりが行きたがっていたイタリアンに予約してるから」

「でも……」


すみれおばさまはまだ粘っている。お父さま、私は焼肉もいいよ……


「いい加減にして」


え?お母さま?


「私たちがどうしたいかじゃないのよ。蒼と碧は頑張ってたわ。私は紅と茜をねぎらうから、すみれは蒼と碧をねぎらってやって」

「でも蒼と碧も紅と茜と一緒がいいでしよ」

「俺たちは4人でいい」

「さあ、行こうぜ。茜、紅、またな」

「え?ちょっと」


蒼と碧は私たちに親指をたて、すみれおばさまを連行して行った。二人に挟まれたおばさまを見て、お父さまがつぶやいた。


「蒼と碧は、もうすみれさんと同じ大きさだな」


私たちが子どもでいられるのはもう少しだ。


お母さまは少し震えている。私は知ってる。優しい人がはっきり断るのって、とっても勇気がいるんだ。お母さまがそうやって頑張っても、すみれおばさまにはちっとも効いてないようだったけれど。


さあ、私たちもご飯を食べに行こう。そして焼肉も好きだよってお父さまに伝えなきゃ。



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