第七話
「聞いたか? バスケ部の話」
「あー、どっちの?」
「男バス、女バス、両方だよ、両方」
「何か、あったん?」
「それがさ、あの全国常連の女バスがインハイ前に対外試合禁止。男バスはその煽りをくらって廃部なんだってよ」
「はあ? なんだそれ。何したんよ。俺達の和美ちゃん、なんかしちゃったってか?」
「馬鹿、あの子じゃねぇよ。二年と三年がしでかしたらしい。そいつら、殆ど寮生活してんじゃん。そいつらがな、ずっと帰寮時間を守らなかったり、帰泊願いも出さずに外泊繰り返してたんだってよ」
「……はあ」
「あと、習熟学習が足りないって。寮生の全員が定期試験の度にいつも赤点。追試、補習の常連だったんだって」
「はあ? ……あのさ」
「なんだよ」
「……それ、何が問題なの?」
「……だよな? お前もそう思うだろ? そんなのどこの部も同じじゃね? 今までどこも同じようなことしてたじゃんよ。赤点ギリギリなのは俺も同じだし、でもまあ、一応クリアしてるし?」
「勉強しろよ」
「たださあ、いま、この時期、そんなどうでもいいことでだよ? 今まで黙認されてたことがだよ? 何だって突然表出したわけ?」
「訳分かんねぇな。それで、どの位処分くらってんの」
「職員室前の掲示板には、一ヶ月の対外試合禁止ってあった」
「なんだよそれ、インハイ前のあいつらにはクリティカルじゃん」
「……そうなん、だよなあ」
「あ、あと、それで何で男バスまで廃部になってんだよ。あいつらの中に寮生いないっしょ」
「まあ、それはほら。去年、あいつらトラブル起こしてたからかもよ? 三年が一斉に部を辞めたってやつ。今まで見逃されてたけど、今回のタイミングで女バスとまとめて粛清したんじゃないかと踏んでる」
「それこそ、『はあ?』だな」
「ほんと。とばっちりもいいところだし、そんなん横暴すぎるだろ。って、おーい」
「……なに」
「どうしたんだよ。何か暗いじゃん、今日」
「だな。顔色悪いぞ。飯抜いたか」
「……別に。なんでもないよ」
「お前も聞いたか? バスケ部の悲劇」
「理不尽、だよなあ」
「……どうでもいいじゃん、そんなの」
「……うん?」
「……うん?」
「もう、その話しないでよ。どうでもいいし。自業自得じゃん、あいつらの」
「うん?」
「うん?」
「……俺、もう行くな。じゃ、またあとで」
「どうしたんだ、あいつ」
「どうしちゃったの、あいつ」
光風高等学校のバスケ部の顛末は、その発表がなされた次の日から、校内を駆け巡っていた。学年を問わずどの生徒も、学校側が下したその悲劇性に顔をしかめ、どこか釈然としないものを感じているようだった。
それは、当たり前の話だった。女子バスケ部の上級生が犯したのは、ほんの瑣末なこと。日常で誰もが当たり前のように犯す些細な事柄。
そんなことで今まで学校側から罰されたことは、過去を遡ってみても、どの部活の生徒も、どの寮生にもまったくない。光風高等学校の誰もがそれを不審に思い、そして誰もがその決定に納得がいっていないようだった。
特に男子バスケ部の突然の廃部は、誰をも驚かせた。過去の不祥事を殆どの生徒が知ってはいたが、もうそれは過ぎた事――とっくに清算されたことだと認識していたからだ。それに、残された男子バスケ部の面々が何とか部を盛り立てようと切磋していたことは皆知っていた。彼らを温かい目で見守っていたし、彼らには頑張っていて欲しいと、自分の姿を投影するように親身になって応援していた。
だが、
今回の出来事については、誰もがそれを追求しなかった――
それに、
光風高等学校の生徒のおよそ三分の一が顔を蒼白にさせ、その出来事にまったく言及することはなかったのである。