校門前の彼女
校門前のガードレールに腰掛け、愉しげに脚を交互に振っている少女がいる。
健康的に引き締まった素足が、ふわりと浮かぶ緑色のワンピースの裾から覗く。
長かった梅雨が明け、煌めく初夏の季節。
初夏の日差しに雨後の緑が映え、緑の少女はその景色に完璧に調和していた。
少女は肩下まで伸びる髪をアップにする。
軽く結き、そのきれいな黒色の髪を、ポケットから大切そうに取り出した、てんとう虫のピンでまとめる。
あらわになったうなじが、少女の年齢に似つかわしくない仄かな色香を漂わせていた。
校門の中をじっと見つめ、何がおかしいのか時折髪に触れてはクスクスと笑っている。
大きく愛くるしいアーモンドアイが、笑うたびにきれいな三日月目となり、その対比がとても美しく映える。
下校する生徒たちが、当然のようにその少女に注目していた。
その少女を見て顔を顰めさせている生徒。
その少女を遠巻きにうかがっている生徒。
その少女を指さし歓声をあげている生徒。
その少女を嫉妬心から嫌悪している生徒。
その少女を微笑ましく見守っている生徒。
その少女をやっかみ、毒づいている生徒。
少女は、そんな彼らの視線や好奇、密語や聞こえよがしの罵声もどこ吹く風と、相変わらず笑顔で校門の中をずっと見つめている。
少女がガードレールに腰掛けてから、十五分経ち、三十分経ち――一時間を経ても、相変わらず笑顔で校門の中をずっと見つめている。
この校門前の光景は、この学校の常態である。
可憐な美少女が、
『この学校の一男子と交際している、そして、毎日彼が現れるまで、校門前で待ち続けている』
というのは周知の事実。
以前は、この少女に惹かれた男子生徒たちが、互いに牽制しつつも頻繁に声をかけていた。
だが、待っている彼以外には興味が無いといった風に無下にされ、彼が現れた瞬間、見惚れるような笑顔で彼の腕に抱きつく少女。
少女のその姿を見続けているうちに、話しかける者は誰もいなくなっていた。
その少女は彼にしか興味が無い。
その少女は彼をとても愛している。
――この学校の生徒は皆それを知っている。
やがて陰気が空を染め始める頃、少女は視線の先に、彼の姿を見つけた。
ガードレールから跳ねるように立ち上がり、両手を大きく振る。
いつものように、彼が悠然と少女の前にやってくる。
いつものように、少女はキラキラと輝く星のような瞳で彼を出迎える。
いつものように、少女は彼の腕を抱える為に駆け寄る。
そして、
いつものように、彼は少女を酷薄な瞳で一瞥し、少女にその腕を委ねた。
彼はその少女にしか興味が無い。
彼はその少女をとても憎んでいる。
――この学校の生徒は皆それを知らない。