四十三 瓜
甘い瓜の味と香りは鮮烈で、アステルたちに幸福感をもたらした。
僕は仕事をする前、悪魔に憑かれて難儀していた。
でも、危険だが自分のペースでできる狩人の仕事を始めてから、悪魔はあまり接触してこなくなった。
仕事をすることがなぜ悪魔を追い払うことにつながるのかはわからない。もしかしたら、悪魔は「遊んでいる奴が気に食わない。苦労して仕事をしている姿を見るとせいせいする」という心理を持っているのかもしれない。
僕とクライトは瓜を持って家に戻った。
「アステル、ありがとう。この村は自給自足で、ごちそうなんか何もないけど、鳥を一羽絞めることにしようか」
「鳥は絞めなくていいよ。不憫だよ」
「でも、父さんが弓でキジか何かを仕留めてくるかもしれない。キノコもあるしな。スープのダシは魚の干物で取ろう」
クライトは言った。
「この村はいいですね。自給自足というのは、煩雑な仕事に縛られない自由さがありますね。町は金が支配する魔窟です」
「そうかもしれないですね。私たちはぜいたくはできないけど、こうして平和に暮らしていますよ」
そう言うと、母は包丁で瓜を切り、僕らに振る舞ってくれた。
甘い瓜は、この世で生きることには意味があると思わせるだけの良い味と香りだった。
つづく




