三十六 洗礼
クライトに勧められ、アステルはラノ教の洗礼を受ける。
僕は言った。
「思うんだ。今を離れて未来に進めば、色々と不自由なことがあるんじゃないかって。今までいいことなんてなかった。小さい頃だって僕は幸せじゃなかった。未来になれば少しはましになるのかと思っていたけど、実際にはよけいつらくなった」
レマが応じる。
「そんな……アステルがそんなに苦労したなんて、私聞いてないよ」
そう言って彼女は目を伏せる。
クライトがアステルたちと同じように宿屋の入り口に座ったまま言う。
「アステル、ラノ教の洗礼を受けなよ」
「ラノ教の?」
「絶望しているなら、そうした方がいいよ」
「うん。僕は絶望しているんだ。そうだね、洗礼を受けよう。ラノ教が偽りの宗教なら、こんなに世界中に信者がいるわけないもんね」
「じゃあ、さっそく明日教会に行こう」
教会は思ったより質素な建物で、大きくはなかった。
内側も質素で、この世の栄華を求める人だけではなく、僕に対しても少々失望を感じさせた。でもそれが神の救いの本質を表しているのだとクライトは言う。
司祭と女が現れた。
司祭は聖水の入った瓶を持っている。
「クライト、今日はよくアステル君を連れてきてくれた。……そこにいる方たちはいいのかな?」
シルヴァとミルマンさんは断った。
司祭と女が僕の前で宗教的な文句を唱え、「創造主ラノを受け入れますか?」と同時に訊いてきた。
僕は、はい、と答えた。
すると司祭は聖水を僕の頭と体に振り掛け、儀式は終了となった。
司祭は言った。
「これからはたびたび教会に来て話を聞くのですよ。そうでなければラノ教徒になった意味がありませんからね」
僕の新しい人生が始まるのか。
つづく




