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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

和風ゲームの世界に転生、目の前にはボスがいる!

作者: 雪見

くるりくるりと回って、小さくなった。


小さくなった手を見て、首を傾げた。


子どもような小さな手……その手の甲に赤い滴がぽたりと落ちた。


ーー


空いた器へ水が流れ込むように前世の記憶が流れてくる。


転生とか、まじか。


高い天井が見える。この場所は俺が知っている畳に和紙が張られた障子に低い文机。


洋風な品物は一切ない。なのに以前は無かったものがこの世界にはある。

ゲームで言うところの術や技。忍術だったり、陰陽術だったり…。



そんで俺、今まさにピンチ。まじか。



木の柱に頭打って、血だらけになりながら倒れてる。


いや、俺死んだって思った当時の年齢は覚えてない。それなりに充実した日々を過ごしていた気がする。



細い腕でプルプルしながら、立ち上がろうと頑張ってる俺。

その目の前で何かが動く気配がした。


鬼の面を被り、仁王立ちで刀を片手に下げている男が、面の隙間から精気のない瞳でこちらを見ている。


軽く刀を横に一閃させると畳が浮き上がり、派手に切り裂かれた。ゴロゴロと転がりながら、なんとか回避する。



いやいやいや、ばかじゃねーの?!



やべぇ、死にそうになって前世の記憶が復活したらしい。

だが、遅すぎる。無理だろ…。


目の前には、背の高い男鬼。

こちとら、数えで7歳にも満たない体格の子どもである。


全力で記憶を探る。この世界で当然のように存在する力、術力。

誰にでもある。俺にも、使えるはず。


前世でプレイをした中に和風ゲームでタイトルは『永久の月影』というのがあった。鬼が敵として登場する。



……レジェンド討伐戦で。



ボス?伝説のボス?



うおおおおおお!役に立たねぇの思い出したっ!


狂戦士と言われるボスを目の前にしていたら、瞬殺だろう。子どもがそんな化け物を相手に出来るわけがない。



多分違う。きっと違う。



男鬼が血濡れた刀を振り上げる様をスローモーションを見ているかのように見上げる。


あれ、これ逃げれるんじゃねぇの?なんか、手加減してくれてる?


ささっと刀の降り下ろされる進路から外れる。


ズドォーンとあり得ない破壊音と大人の拳程の木片の欠片が飛んで来た。


アイターッ!


木片ごときで、天国行けるじゃねーか!ちくしょう!


避けなかったら、木っ端微塵よ?!

手加減どころか威力は最大値だ!!


男鬼は煙の立ち上る粉砕した板間から刀を引き抜き、再度俺に向き直った。


この世界での記憶を探ってみる、俺何してたんだっけ?

思い出せ、思い出せ!男鬼に襲撃される理由が、なんだったのかその答えに、もう少しでたどり着けそうなのに。


このまま行くと俺、死ぬ。


……。


くそっ、もう、『永久の月影』で戦った男鬼討伐戦のように、中二病満載でやってやらぁ!


俺は血だらけの目もとを袖口で拭い、覚悟を決める。


左手は鞘に見立て腰へ。右手は人差し指と中指を残して握り、手刀を作る。その手を前方へと突き出した。



「数多の猩々よ、彼の者を封ぜよ。来たれ(らい)(まもり)。来たれ(ふう)(まもり)



恐怖のメーターを振り切った声は、抑揚がなく凪いだ風のごとく静かだった。


それとは相反するように、体の周りから吹き上がる風を感じ、俺の流れ出る額からは赤い飛沫が舞いはじめる。


男鬼は刀を持つ腕を上げたところだった。猩々と呼ばれる小さな紅い猿が何もない空間から次々と姿を現し、男鬼へ飛びかかる。


猩々に体の自由を奪われ動きを止めた男鬼は、低く呻き声をあげた。


背中に雷神の刺青が入った背の高い筋肉隆々な上半身裸男と、柔らかそうな青みを帯びた薄いシースルーの布を幾重にも纏った痩身の男が姿を現した。


敵と認識した二人は、男鬼に怒濤の攻撃を開始する。


ゲーム時のように術が発動するじゃん!


何?!この世界ゲームなの?!それともゲームと同じ仕様なの?!!


じゃぁ、目の前の男鬼……まじで、ボス戦の鬼?!


ソロで撃破とか、無理ゲーだろ…。


ゲームではレベルがカンストしたプレイヤーが揃い、いくつものパーティーを更に複数組んでヒーコラ言いながら瀕死になりつつ、倒したのだから。



「…」



未だに雷神や風神の攻撃を受け続けているが、倒れることもなく動きをただ止めている。



その間にぱっくりと割れていたのだろう血だらけの額を押さえながら、閉じられていた障子をバーーンと音がしそうな程、大袈裟に開けて離脱を図った。


そこは、広々とした空間に絶妙な距離で松が植えられ、白く美しい玉砂利が敷き詰められている。それらだけであれば、見事な日本庭園だっただろう。


庭には複数の武装をした面々が、待っていましたとばかりに術を発動させたのだ。


俺へと向かって。


本当にバカなの?アホなの?この世界何なの?!!



俺びびって、横に避けるも、複数の術による衝撃で文字通り、体ごと吹っ飛んだ。


ちょ……なにこれぇ?!


ゴロゴロと転がりながら玉砂利の上をころがり、ようやく止まった。


次々に繰り出される威力の高い術に、安全であろう場所まで離れると、今何が起こっているのかと目を瞬かせた。


本来後衛であるはずの術士達が壁のように立ち並び、障子の先にいる男鬼へと集中砲火のごとく術を展開させている。


雷神も風神もこれには下がらずにはいられなかったようで、俺の側まで戻ってきていた。


術士が攻撃を止めると、白い粉塵が空へと向かって舞い上がっていく。

一拍後、前衛である者達が一斉に障子の向こう側へ飛び込んでいった。


まるでゲームの中の男鬼討伐戦を再現しているかのようだ。

だが、ここはゲームと同じ世界仕様であったとしても、俺の現実でもある。

俺の記憶がそう伝えてくるのだから。


男鬼は仁王立ちのまま、白紙に墨で呪印が書かれた札を、ベタベタと貼られ封呪された。強すぎて、倒すことも出来ない男鬼。


俺がなんであの場に居たのか…男鬼が狙う原因とも言われる特殊な痣が俺にあるからだと聞いた。


何それ、初めて知った仕様なんだけど。


ゲームでは、捻れた愛に執着し、とり憑かれた男が鬼になっていたが、この世界の鬼はどうなのかと問えば、わからないと返答がきた。


わかることといえば、牡丹の痣を持つ者が、最強と詠われる男鬼に一生涯狙われ続けるそうだ。

って、どんな罰ゲーム?そんなストーカーいらないんだけどっ。


今回の戦いでは、いきなり現れた男鬼によく耐えたと労う面々。


今回は復活するまでの時間がわかったので対処出来たが、距離を無視して牡丹の痣を持つ者の側に現れて、殺そうとするらしく阻止できない方が多いと聞いた。


男鬼は牡丹の痣を持つ者を執拗に狙いながら、その者が死ぬと、狂ったように全てを破壊し尽くしながら、封呪されるのを待つのだ。


再び牡丹を持つ者が現れるまで眠る殺戮者。老いもしなければ、死ぬこともない。しかし、牡丹の痣を持つ者は、老いもするし、病気にもなる。ただ、その者の周囲にはなぜか富や名声をもたらすそうだ。


牡丹の痣を持つ者が出現する謎。

男鬼の存在。


俺がプレイをした『永久の月影』というゲームに男鬼に関する何かしらが隠されているはずだ。


封呪されてはいるものの、万能な訳ではない。時が経てば封呪を破って再び襲ってくるだろう。


再び復活するまで、その間に出来るだけ俺は強くならなければならない。前世の記憶も未だに断片的だ。


そして、何のために牡丹の痣を持つ者を狙うのか、ゲームで訪れた場所をたどり真実を探し、狂った男鬼を止める。



その為に俺は『永久の月影』を前世でプレイした記憶を持ち、転生したのだろうから。


お読みくださり、どうもありがとうございました。

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