ある男子高校生の見当違いな心境
ある初対面のカップルの話。
僕には、彼女がいる。
そう、彼女とは僕の恋人のことであり、一年前に合コンで出会った女の子のことであり、今僕の目の前で包丁をこっちに向けている女の子のことである。
あぁ……とても可愛い。
包丁を持つ彼女はとても可愛らしいが、髪の毛はボサボサ。包丁を持つ手は震えているし、よく見ると目も血走っていて歯をギリギリと噛み締めていることも分かる。
……ドライアイかもしれない。今度、眼科に連れて行ってあげなくちゃ。あんなに力いっぱい噛み締めたら歯がかけてしまうかもしれない。一応、歯科にも行こう。
まったく、もう。包丁はそんな風に握り締めて持ってたら怪我をするかもしれないじゃないか。
いや、待てよ。あんなに赤い目をしているということは、何かあって泣いてしまったからかも知れない。泣くときは僕の隣でってお願いしてあるから、僕の言葉に大体忠実な彼女に限って独りで泣く、なんてことはないとは思うけど。念の為だ。後できいておこう。
え?何だって?
僕が浮気したって?
そんな、この僕に限って有り得ないよ!!
僕が女の子と仲良さそうに喋っているのを見たって?
もう苦しくて寂しくて仕方がないから僕と一緒に死ぬだって!!?
冗談じゃない!!!
僕が君のことを好きなのを分かっているだろう?
それを浮気したって?だから殺すって?
ふざけないでくれ!!
流石の僕も怒るぞ!!!
殺すのなら別の理由にしてくれ!!
僕はちゃんとずっと今も君が好きだし、よもや僕のこの想いを君が疑うとはっ!!なんたることだ!
僕にだって女友達くらい居るしさ、それに用事のある時にしか喋りかけたりしないよ!
君が見たのは交際一年目記念のプレゼントを相談したかったからだよ!
そういうのって、女の子の方がよく分かるだろう?
だから僕を殺すのに、僕の愛を否定するような理由を持って来るのは止めてくれ!!
え?あ、うん。他の理由なら僕は甘んじて受け入れるけど。それがどうかしたの?あぁ、別に死にたいわけじゃないよ。君に殺されるなら、別に構わないかなあって、思うから。ただ、僕の愛を疑ったり、否定したりすることは君でも許さない。
それでも不安だって?
それなら、僕の愛を証明してみせるよ。
え、なんで包丁を持つのかって?
言ったじゃないか、僕の愛を証明するって。
安心してよ。すぐに僕も向かうから。君と出会ってから一年目の今日、僕の愛を証明するんだ、ちょうどいいと思わない?
だから、今から、君を殺して、僕も死ぬ。
前書きのとおり、実は初対面です。
双方ヤンデレで妄想癖があるとどうなるのか妄想してみました。
双方とも、お互いのストーカーで、付き合っているという妄想を信じこんでいます。食い違ってるのに、変に話が噛み合うこの二人。こんなやり取りはやがてこの二人の日常になって、数年後に無事結婚します。そんな裏設定があったりなかったり。です。